福岡大学で学び、挑戦し、夢を追う学生たちに迫るインタビュー企画、「ふくらませ、大胆に。」
学びに向き合う姿勢や将来への想い、日々のキャンパスライフを通した一人一人の個性と成長をお伝えします。
「周囲の期待には120%で返さないと、と思ってしまうんです」。馬場一色さん(医学部看護学科4年次生)は、完璧を求める気持ちが自分を突き動かしてきたと語る。
小学生の頃は、サッカー選手になることを夢見ていた。もっとうまくなりたいと、高校へはスポーツ推薦で地元を離れ長崎県の強豪校に進学。1年生の時から公式戦でユニフォームをもらえるほど、情熱を注いで練習に打ち込んだ。さらに、勉強面では定期テストでコース内1位をほぼ維持し、文武両道を貫くことを目標に努力を重ねた。
しかし、青春の灯だったサッカーは、試合中の怪我がもとで休養せざるを得なくなってしまう。


怪我が多かった選手時代、彼女を支えたのには柔道整復師の存在があった。体に触れるだけで症状を把握し、改善に導く技術に関心を持った。体の構造や仕組みに興味を持っていたこともあり、柔道整復師への道を目指そうと思った時期がある。
だが、コロナ禍という未曽有の事態が起きたことで、思いは揺らぐ。緊急事態宣言下、何カ月も閉院を余儀なくされる小さな整骨院。「果たして将来を見通せる仕事なのか」と悩む。
結果、看護学科への進学に舵を切った。
しかし、入学後しばらくは、サッカーのように夢中になれるものが見つけられずに過ごす。「1年次生の頃の記憶は、あまりないんです」。学業には向き合いながらも、日々はただ足早に過ぎていった。
そんな生活を変えたのが、2年次生の春、友人に誘われて参加した『IFMSA-Japan』の新歓イベントだった。「大学生活が、ぱっと“色付いた”んです」。打ち込めるものに出会えた瞬間をそう振り返る。
『International Federation of Medical Students’ Associations』通称『IFMSA(イフムサ)』は国際NGOで、社会貢献や国際社会とのつながりの中、幅広い視野を持った医療人を育成し、より良い社会を目指すことを理念として活動している。団体には、取り組み別に6つの常設委員会が設置され、各委員会の下でさまざまなプロジェクトやワークショップが展開されている。
彼女が強く惹かれたのが、「人権と平和に関する委員会(SCORP)」の中の「障がい者に対する偏見、差別、冷遇をなくすことを目指すプロジェクト(POYOPIN)」だ。
子どもの頃、大今良時原作の映画『聲(こえ)の形』を見た時の違和感が、心の片隅に残っていた。音が聴こえない人と聴こえる人の間にある隔たりは何なのか。突き詰めて考えてみたら、「自分が使っている言葉」が相手に届きにくいだけだと気付く。
「聴こえないって、英語が通じないのと同じ。手話で話せば伝えられるし、相手から伝えてもらうこともできる」。音のない言語『手話』への関心が高まっていく。
「今の日本では、多くの人が、障がいを持つ人のことを『他人事』と捉えていると感じます」。そんな関心の薄さが、「全ての人が暮らしやすい社会」を実現にするために解決すべき課題の一つだと思った。
新しい環境に飛び込むのは苦手。でも、IFMSA-JAPANには、『変化を起こしたい』という思いを後押してくれる同志がたくさんいた。3年次生の春、思いを言霊に乗せて、手話プロジェクトのリーダー職に手を挙げる。


看護実習とリーダーの職責との両立。やり遂げることができたのは、「失敗してもいい。その後どう乗り越えるかが重要」という先輩の言葉と「ありのままの自分をそのまま受け入れてくれる、IFMSAという居場所があったから」だ。
看護実習を通しては、「100%の正解」が全ての物事に存在するわけではないと思えるようになったと話す。患者と看護師は、人対人。自分が思う完璧が、相手のそれと同じだとは限らない。完璧主義に縛られて、自分で自分の可能性を狭めてしまっていたことに気が付いた。
インクルーシブな社会を目指して彼女がまいた種は、今後輩に受け継がれ、広がりを見せている。「手話を学んで、伝わる楽しさを知った」「手話技能検定を受験したい」という声が届き、東京2025デフリンピックに合わせて開催した勉強会にも志を持つ学生が参加してくれた。
現在は看護師の国家資格に加え、保健師資格の取得も目指す。高齢化や医療技術の進展により在宅医療の必要性が高まる中、両方の知識を持ち、患者の苦痛をより理解できる人材を目指している。
全速力で駆け抜けている学生生活で得た仲間と経験。それは、「恐怖心の中でも一歩を踏み出す力」になった。
「そもそも、自分は看護師に向いているのかと思ったりもします。でも、迷う自分も居ていい。やりたいと思ったことを言葉にして、どんどん叶えていきたい」。


【関連リンク】
・公式Instagram(「ふくらませ、大胆に。」別企画掲載)
・医学部ウェブサイト
