福岡大学で学び、挑戦し、夢を追う学生たちに迫るインタビュー企画、「ふくらませ、大胆に。」
学びに向き合う姿勢や将来への想い、日々のキャンパスライフを通した一人一人の個性と成長をお伝えします。
山中咲幸さん(人文学部英語学科4年次生)は、キャンパスの中でも一風変わった部を束ねている。所属するのは「航空部」。自らグライダーを操縦し、風を読み、空を翔ける。まさに“空の部活”だ。
きっかけは小学生時代に見た空港を題材にしたテレビドラマ。心を奪われ、以来ずっと空への憧れを抱いてきた。福岡大学では迷わず航空部の門を叩いた。同期には10人程の仲間がいたが、コロナの影響で活動が制限。次第に退部者が増え、気がつけば先輩と自分の2人だけになっていた。
「飛べないなら残っても意味ないかも」
焦燥感にかられた時、いつも頭に浮かぶのは初飛行の空だった。
「グライダーってエンジンが無いから無音なんです。ただ風を切る音だけ」
静けさの中、くじゅうの山並みの高さから景色を眺めていると、自分が鳥になったように思えた。動力を持たないグライダーは、風を読んで同じ場所に帰還するには高い技術がいる。一方、ひとたび上昇気流を掴めば何時間でも飛ぶことも。単純ながら奥深い。そこに魅力を感じた。そして、空を飛ぶことが幼い頃からの夢にも繋がっていると信じたかった。
空を飛ぶには多くの準備と人手がいる。機体の運搬、整備、フライトの補助……それらを少ない人数でさばいていくのは至難の業だ。ただ、希少な部活がゆえに、他大学との交流は活発だった。活動拠点となる大分や熊本の滑空場では、九州大学や熊本大学などと合同合宿を行うことで、飛行機会を確保することができた。
「福大って昔はとても強かったんです。部室にはトロフィーがたくさん飾られていて、滑空場の管理も任されていて。そんな伝統ある部活だから、他大学の方々も“廃部にしちゃいけない”とたくさんの手を差し伸べてくれました」。


4年次生の春、いよいよ1人になった。山中さんに火がついた。
新入生歓迎週間にあわせポスターを学内中に貼り、巨大な看板も制作した。「それまでインスタに投稿したこともなかったんですが、毎日ストーリーをあげるなどSNSにも力を入れました」。チラシには“部員”ではなく“パイロット募集”と記した。
正門横には実機を展示した。機体は九州大学の航空部が「ぜひ使って」と貸してくれた。「やれることはもう全部やりました」。
努力が実り、新入生は一気に10人も入部した。「部室が満パンで荷物が置けないくらい。やっと部活らしくなったなと」。初合宿では新入部員が慣れないながらも、懸命に動いてくれた。「泣きそうなくらい嬉しかった」と山中さんは語る。
将来は航空管制官や、国際物流・航空運輸の分野に携わりたいという夢は続いている。卒論では、言語学の観点から航空管制との通信をいかに正確・簡潔に伝えるかを研究テーマに考えている。空での正確なコミュニケーションがいかに重要か身をもって理解しているからだ。
「自分がやってきたことが、誰かの役に立つ瞬間がある。今では、あの孤独も無駄じゃなかったと思えます」。かつて部員1人だった航空部は活気を取り戻し、今、新たな上昇気流に乗っている。