福岡大学で学び、挑戦し、夢を追う学生たちに迫るインタビュー企画、「ふくらませ、大胆に。」
学びに向き合う姿勢や将来への想い、日々のキャンパスライフを通した一人一人の個性と成長をお伝えします。
医学部に通いながら、準硬式野球部では 4 番バッター。
福岡大学にそんな“二刀流”に挑む人がいる。中村栄太さん(医学部医学科第 4 学年)だ。
朝 7 時からの練習、週末の試合、空き時間には筋トレ。鍛え上げた身体は、部の中でもひと際目を引く。
それに加えて膨大で高度な医学の学び。誰が考えてもその両立は容易ではない。
それでも彼は笑ってこう言う。
「迷ったときは、敢えてしんどい方を選ぶんです。やらなかったことを後悔したくないから」。
同じような言葉を言う人は多くいるが、実践できている人はどのくらいいるのだろう。
中学・高校時代、野球一筋の生活を送っていた。強豪校で活躍し、全国大会も経験。高校最後の夏にはベンチ入りを果たし、主力としてチームをけん引した。
大舞台を経験したことで、自信と課題の両方を胸に刻んだという。
浪人を経て、福岡大学医学部へ。入学後、医学部生のみ所属できる準硬式野球部に入った。
しかしそこには、夢中になり切れない自分がいた。
「もっと真剣に野球と向き合いたい」。その思いは日ごと強くなり、ついに第 2 学年時には全学部の学生が所属する準硬式野球部へ“再入部”。
明確な姿を目指して球を追う選手たちの緊張感、スイングの度に汗が飛び散り手を豆だらけにする執念。
「ここでなら、もう一度本気になれる」と確信した。
準硬式野球部で出会ったのは、これまで野球漬けだった中村さんにとって、学部は異なるが、同じような価値観を持つ仲間たち。
時にぶつかり、語り合いながらも、一つの目標に向かって進む日々。だからこそ生まれる連帯感の中で、より自分の限界を試すように努力を重ねた。
「でも医学部にいるとこれまで会ったことのないタイプの人が多く、自分と全く違う価値観に触れられました。世界が広がった気がします」
と左手にできた硬いマメの痕を触りながら話す。
役割の違う仲間と一つの目標に向かう野球は、チーム医療の在り方を考えるきっかけにもなる。
役割の違う人間同士が協力し、患者さんの命を支える。その姿に、野球で学んだ経験が重なるのだ。
現在は、医師国家試験に向けて、運動生理学や内科学などの専門分野の勉強に本格的に取り組んでいる。
「人間の仕組みを知るのが楽しい」。
“身体の変化に敏感であること”“患者さんの言葉にならない不調に気付けること”に医師としての魅力を感じると話す。
将来はそうした“気付き”を大切にできる医師になりたいと二刀流磨きに余念は無い。
「やると決めたら、ちゃんと準備して臨む。僕は能力が無い分、コツコツ積み重ねるしかないんです」と言い切る目線は鋭い。
派手さは好まない。「有言実行より無言実行の方がかっこいいし、しれっとライバルの先を行きたいんです」とも笑う。
ただ、その背中で見せる姿勢はチームにも学友にも波及していく。準硬式野球部で、「中村がいたから続けられた」と声を掛けられた。
「自分の行動が、誰かの背中を押せた。こんなに嬉しいことはない」。
今期が最後のシーズン。目標は全国制覇。「このチームでやれることを全部やって、悔いなく終わりたい」。
とてつもなく忙しい医学生が、全国屈指の準硬式野球部で完全燃焼する。しんどい学部や部活を選んだが、「あのときの選択があったから、今の自分がある」と、未来の彼は言うだろう。
医学と野球、その両方に本気で向き合った日々がくれた力。二刀流だからこそ得たその力は、将来きっと白衣の現場でも多くの人の命を支える力になるはずだ。
【関連リンク】
・公式Instagram(「ふくらませ、大胆に。」別企画掲載)
・医学部ウェブサイト