福岡大学で学び、挑戦し、夢を追う学生たちに迫るインタビュー企画、「ふくらませ、大胆に。」
学びに向き合う姿勢や将来への想い、日々のキャンパスライフを通した一人一人の個性と成長をお伝えします。
夜明け前、目覚ましは5時に鳴る。馬術部の西嶋大河さん(人文学部英語学科1年次生)の朝は早い。朝6時半には、油山の中腹にある福大馬術部の馬場に馬を引き出す。
「母のお腹の中にいる時から、馬に乗っていたんです」


彼の母親は国体の馬場馬術競技で3度優勝した経歴を持つ。父親は那珂川市内で乗馬クラブを経営している。初めて自分の脚で馬に跨ったのが何歳だったか覚えていないほど、馬は常に生活の一部だった。
中高生時代から福岡県の馬場馬術競技強化指定選手に選ばれていた。同世代のライダーからも「あいつは上手い」と言われ、騎乗技術には自信があった。
だが、馬場馬術はただ馬に技をさせる競技ではない。
人と馬とが互いに信頼し合い、心を通わせて初めて、審査員や観客を魅了するパフォーマンスが生まれる。
人と対話できる馬を“育てる”技術は、今もまだ母の足元にも及ばない。母が仕上げた馬では試合に勝てても、自分で一から育てた馬では歯が立たないことがある。「母には天狗の鼻を折られました」と笑う。
あえて乗馬経験者が少なく、馬も荒削りな環境の馬術部がある大学を選んだ。「馬をつくり上げる“余白”がある場所の方が、自分の成長に繋がると思ったんです」。
餌やり、水替え、馬房の掃除、運動。部員同士で支え合いながら続ける、いわゆる一般的な大学生とは少し異なる日課も、彼にとっては特別なことではない。


「馬は鏡なんです。自分の未熟さが、そのまま馬の反応として返ってきます」と、彼は言う。
人が焦りや苛立ちを抱えて跨れば、馬は人に反発する。自らの精神を安定させることの大切さに気付いた。
以前は、馬が思いどおりに動いてくれないと、感情をぶつけがちだった。振り返れば、それが馬を余計に混乱させていた。良いことは褒め、悪いことは明確に伝える。ブレない対応こそが、信頼関係の土台になると身を持って学んだ。
競技経験の浅い部員への指導も、自らを映す鏡になった。
初心者がつまずく理由を考えるうち、自分の癖や不足に気付いた。その学びを部員へもフィードバックする。部員が成長するに連れて、馬の表情に変化が出てきた。そして、人馬の成長が、競技の成績に現れるようになった。
「馬術部の仲間に、僕が持っている技術を全部注ぎ込みたい」。部を強くする責任感も芽生えた。
彼が接する馬は実に多様だ。大学に7頭、実家に17頭、それぞれ性格も反応も違う。「この馬は臆病」「この馬は頑固」と個性が際立ち、時に意思疎通がうまくできずに落ち込むこともある。それでも違いを受け止め、生かし方を探る過程に、挑戦心を刺激される。
努力は国際舞台でも試された。7月、韓国で開かれた第53回日韓馬術大会。貸与されたのは臆病で周囲に気を取られる馬だった。「集中をそらさず、指示に意識を向けさせることだけ考えました」。結果は見事1位。初の海外遠征で“等身大”の実力を出し切った。
全日本ジュニア馬場馬術大会出場、南アフリカ共和国への遠征など、挑戦は国内外で続いている。
彼の目標は二つ。一つは、福岡大学馬術部を再び「強い部」にすること。そしてもう一つ、究極の目標は、母と共にオリンピックの舞台に立つことだ。「自分が活躍して、応援してくれる人と一緒に喜びを分かち合いたい。親子で世界に挑みたいんです」。
その目は未来をまっすぐに見据えている。


【関連リンク】
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