南極通信⑰―第58次南極地域観測隊の活動を写真付きで紹介―(3月3日~8日)

福岡大学理学部・林政彦教授(地球圏科学科)が、第58次日本南極地域観測隊の一員(福岡大学海外研究員)として、平成28年11月末にオーストラリア西海岸フリーマントルで南極観測船「しらせ」に乗船。12月22日、南極大陸に上陸し、約40日間、無人航空機を用いた大気微粒子観測、大気放射・降雪・雪面観測などを実施し、南極大陸上の大気と氷床の相互作用が環境変動に及ぼす影響を調査しました。3月8日現在、アメリー棚氷から東120度に向かって航行しています。

なお、本コラムは、南極における日本の南極地域観測隊の活動の様子を、第58次南極地域観測隊員である林教授の観測隊生活を通じて、広く社会に広報することを目的に紹介しています(日時は現地日時)。

  • 林教授の研究実績やプロフィルはこちら

00_line-top.gif

【3/3】しらせは順調に公開を続けている。今日は、ハイボリュームサンプラーのフィルター交換の日。東よりの風の中を東寄りに進むしらせは、斜め前から風を受け、サンプリングには好都合の条件が続く。館内放送「〇〇度〇〇mにクジラの群れ。動きが活発である」急いで第一観測室に持ってきていたカメラを持って06甲板に出る。確かに潮を吹き、背中や尾びれが見え隠れする(写真)。これまで見た中で一番動きが活発だ。そして、クジラの上を海鳥が舞う(写真)。

【3/4】時々、「クジラの群れ」の館内放送が入るが、南極大学の講義の準備を続ける。長距離を走っているということもあるが、結構クジラの群れに会うものだと感じる。午前中、南極大学初日。今年は、氷の流出でペンギンにとっては幸せな夏シーズンだったらしい。こういう話が聴けるのも総合観測プロジェクトである南極観測隊の特徴だ。

20170303_鯨.jpg

クジラ

20170303_鯨潮尾と海鳥.jpg

鯨潮尾と海鳥

【3/5】船が揺れるようになってきた。しらせは東進しているが、東進してくる低気圧に追いつかれている感じ。天気が良くないので時間が淡々と過ぎてゆく。観測が終わった隊員がほとんど。

【3/6】夜、映画「南極料理人」の座談鑑賞会(2回目)。ドーム基地の実際などを映画を観ながら紹介する。内容については、ここ(南極通信)ではノーコメント。今日はかなり揺れている。揺れる中での南極大学「S17の45日-カイトが飛んだ日-」の講演を行う。乾燥しているので、口の中が乾く。ちなみに船内の相対湿度は、20%以下になることもざらだ。

20170308_蓮葉氷.jpg

連葉氷

20170308_蓮葉で埋まるポリニア.jpg

連葉氷で埋まるポリニア

20170308_南極大学.jpg

南極大学

【3/7】午後、風が弱くなってきた。すでに東経120度目前。22時23分に「海洋観測用意。観測の種類はXCTD」いつものアナウンス。XCDTは海水の塩分濃度、水温などの深さ分布を測る海の気象ゾンデ。海洋観測の隊員は、今日も、昼夜関係なく働いている。

ちなみに、この間、時刻帯変更が2回あった。今晩も時刻帯変更の予定。23時が翌日24時になる。その直前の観測だ。今日の時刻帯変更で、日本との時差は1時間となる。

東経121度に達すると、しらせは進路を南に変える。目標は、トッテン氷河前の海域。ここもポリニア(パッチ状の開水域)らしい。時間に余裕ができたので、数年後の観測のための予備調査とのこと。

【3/8】揺れが収まり、今日は朝食をとる人が多かった。朝、すでにポリニアに入っている。ポリニアでは開氷水域で海水面が冷却され、蓮の葉氷ができ、多量の海氷(氷山ではない)が形成されているとのとこ。

確かに大陸に近いこの辺りに来るまでに乱氷帯を通ってきたにもかかわらず、ここは大きな水開き(ポリニア)になっていて、その表面には、薄い蓮の葉氷(写真)が広がっている(写真で白く見えるところ)。そして、ここで氷を形成することで水が抜けて塩分濃度が高くなった重い海水が沈み込み、海洋大循環の出発点となっている、と世界のTamura(58次隊海氷研究)が言っていた。

南極大学、今日の講師は57次越冬隊のPANSYレーダーの高麗さん。なんと、小田原高校の卒業生(すなわち、私と同窓)とのこと。2人目は、32次隊(26年前)で一緒に越冬した梅津さん(写真)。なんだか、縁のある人が続く。

南極大学が終わると、しらせはすでに、トッテン氷河河口(?)沖まで行って、折り返していた。ここで、一晩漂泊したら、海氷域を抜けて、ひたすら東進することになる。

01_line-under.gif

小バナー.png