南極通信⑤―第58次南極地域観測隊の活動を写真付きで紹介―(12月21日~23日)

福岡大学理学部・林政彦教授(地球圏科学科)が、第58次日本南極地域観測隊の一員(福岡大学海外研究員)として、11月末にオーストラリア西海岸フリーマントルで南極観測船「しらせ」に乗船。12月22日、南極大陸に上陸しました。約40日間の滞在期間中、無人航空機を用いた大気微粒子観測、大気放射・降雪・雪面観測などを実施し、南極大陸上の大気と氷床の相互作用が環境変動に及ぼす影響の解明に挑みます。

林教授からは連日、観測隊の様子について写真とコメントが寄せられています。本コラムでは、南極における日本の南極地域観測隊の活動の様子を、第58次南極地域観測隊員である林教授の観測隊生活を通じて、広く社会に広報することを目的に紹介していきます(日時は現地日時)。

次回の「南極通信⑥」は、2017年1月5日公開する予定です。

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停泊予定地の弁天島

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昭和基地に近いラングホブデ

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水面を飛ぶペンギン

【12/21】「しらせ」は快調に、停泊予定地である弁天島沖を目指す。定着氷縁あたりでは、ペンギンが泳いでいたり、歩いていたり。遠く氷山の近くには、氷山の周辺の水開きから出てきたと思われるアザラシがぽつぽつといる。

昼前ぐらいに、弁天島沖の現在地に到着。昭和基地(南緯69度00分、東経39度35分)が見える。弁天島沖は、毎年、「しらせ」が停泊し、昭和基地へのアクセスを本格的に開始する場所である。昭和基地に近いラングホブデ(最高峰長頭山:約380m)も見える。26年前の第32次隊の時の思い出がよみがえる。南極に帰ってきた。そして、いよいよ南極の活動が始まると感慨深い。同時に不安も感じる。気を引き締めよう。

弁天島沖停泊を受けて、明日からの野外観測活動のための荷繰り(荷物を輸送パレット上に置き、ヘリ輸送に備える)が行われた。われわれS17グループも真っ先に野外に送り込まれる予定である。輸送パレット11枚にもなる荷繰りを行った。

これで、大陸上観測拠点への出発準備が整った。なお、S17グルー プは、平沢尚彦さん(極地研究所)、小西哲之さん(大阪教育大学)、小塩哲郎さ ん(名古屋市科学館)、中田浩毅さん(kktイノベート)、アリマス・グリさん(ゼノクロス航空宇宙システ ム)、そして私・林政彦(福岡大学)の6人である。

 

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競争するように歩くペンギン

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南極大陸上の雪上車

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南極大陸から見た氷原のしらせ

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山と氷原の堺に見える蜃気楼

【12/22】「しらせ」は、昨日から弁天島沖で停泊中。午前中、「しらせ」のすぐそこにペンギンの群れが。群れの中の2羽が競争するように歩いていく。ラングホブデ方面に蜃気楼が見えた。ラングの山と氷原の境界に見える蜃気楼、分かるだろうか。ペンギンにはだれでも気付くが、蜃気楼は、なかなか気付かない。砂漠の蜃気楼、氷原の蜃気楼、いずれも光の屈折が原因だ。

ヘリコプターの試験飛行を午後一番で行い、異常がないことを確認し、「しらせ」からの昭和基地があるリュッツォ・ホルム湾における野外オペレーションが本格化した。われわれは15時20分に先陣を切って、しらせからS16へ。S16というのは、南極大陸上標高約600mの場所にある大陸遠征旅行(オペレーション)の拠点としているところ(詳細は後日。とにかく、南極大陸上にいる)。

ここで数カ月間保管(といっても野ざらし状態)されていた雪上車を除雪し、引き出す作業を行った。5台の雪上車を立ち上げた。4台は素直に立ち上がったが、1台は、ドリフト(雪)が多く、さらに一度融けて氷となっている部分も多くてこずった。食事をとり、21時半に作業再開。今晩は雪上車の中で睡眠をとる。

作業後、海の方を見ると、「しらせ」がはるか彼方に、しかしはっきりと確認できた。あの「しらせ」をこうして大陸上から見ることができるのは、一部の隊員だ。あのしらせに戻るのは40日後。このような準備をこれから数日間行い、そのあと観測の立ち上げとなる。

 

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1km先のS17へ雪上車で向かう

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ドリフトがついたS17拠点小屋

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機械隊員初めての雪上車走行

【12/23】今日は、朝から、雪のドリフトに埋まりかけた軽油入りの12本のドラム缶(200リッター)12本を積んだ通称「燃料ぞり」の積雪からの引き出し。同時に、われわれが、約40日間お世話になるS17航空拠点の除雪と発電機等の立ち上げ。観測隊の機械整備担当の隊員2人、前の越冬隊員に基地の立ち上げを行ってもらう。私の役割は、ここでも「除雪」。

昼食は、雪上車の中でみんなでワイワイと食べる。午後、ヘリコプターが「しらせ」からの荷物を運んでくる。総量約6トンの荷物を4回に分けて運んでくる。荷物と一緒に「しらせ」の自衛隊員10人がS17に来てくれた。彼らの仕事は、ヘリが運んでくる荷物の荷受けとそりに積まれた144本のドラム缶を下ろして並べる作業。これをS17で活動をする隊員だけでやるとしたら、ものすごい時間と労力がかかる。機械隊員と自衛隊の隊員の方に感謝。

今日は、一日中、そり整理、S17拠点小屋の立ち上げ、荷受け作業など、基地での活動を行うための準備に費やす。これがなくては、観測ができない。

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