〔研究者コラム〕「夏季シーズンに身につけよう!『遊泳術』と『自己保全能力』(最終回)」―大学での水泳教育の現状2―

競技コーチング・水泳指導が専門の福岡大学スポーツ科学部・田場昭一郎准教授のコラム「夏季シーズンに身につけよう!『遊泳術』と『自己保全能力』」は今回が最終回です。

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福岡大学スポーツ科学部では、夏季に「アクア・スポーツ実習」を実施しています。この実習は2014年度まで遠泳実習と称して大人数で隊列を組んで海を泳ぐ実習でしたが、自然(海)への理解を深め、より高い泳技術を身につけるために、2年前からダイビングの資格取得を目指すカリキュラムに変更しました。

履修する学生の泳力、そして授業に取り組む意識は高く、学生らの水泳の授業における3分間平泳ぎテストの平均距離は、158.7m(2015年)、167.1m(2016年)です。この記録は、水泳の授業履修者の平均123.7m(2015年)、115.8m(2016年)よりも非常に高いことが分かります。しかし、これはあくまでもプールでの泳力です。大海を「泳ぐこと」や「潜ること」とは全く異なり、足のつかない水環境で浮遊することは、距離や時間では測れない泳技術が必要です。

アクア・スポーツ実習の実施場所は、沖縄の北部(屋我地島と本部海岸)の大自然に恵まれた美しい環境です。しかし、大自然に恵まれているということは、本土では見ることのない海洋生物も生息しており、中には毒を有する生物もいて非常に危険です。そして台風の影響はもちろんのこと、スコール(にわか雨)に見舞われて雲の流れが変わり、雷雨の影響による宿舎待機、思いどおりに実習が進むことはありません。人間に合わせて物事が計画され、整備されている都心とは全く異なります。

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このように、自然界では人間が自然環境に合わせて適応し、自然界のタイムテーブルに人が合わせるように、自然の流れに身を任せて共存していかなければなりません。また海では思いも寄らない事態が起こるので、周囲の状況を見て臨機応変に対応する判断力が培われます。潮の満ち干、足のつかない水環境だからこそ、緊張感をもって「泳げるということ」について考えます。つまり、これが「浮遊術」ということでしょう。

夏になると、海水浴時の事故、特に最近は遊泳禁止区域での事故が多発しています。泳げるような場所でも遊泳禁止となっているには、その理由があります。自然(海)に囲まれた日本国だからこそ、自然に逆らわず、自然を理解し、「浮遊術」を身につけなければなりません。バーチャルな世界観が脚光を浴びている時代ですが、だからこそ自然と触れ合う教育をもっと大切にし、日本国に見合った“遊泳術”と“自己保全能力”を身につけるための水泳教育が必要です。

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