南極通信⑭―第58次南極地域観測隊の活動を写真付きで紹介―(2月14日~19日)

福岡大学理学部・林政彦教授(地球圏科学科)が、第58次日本南極地域観測隊の一員(福岡大学海外研究員)として、平成28年11月末にオーストラ リア西海岸フリーマントルで南極観測船「しらせ」に乗船。12月22日、南極大陸に上陸し、約40日間、無人航空機を用いた大気微粒子観測、大気放射・降雪・雪面観測などを実施し、南極大陸上の大気と氷床の相互作用が環境変動に及ぼす影響を調査しました。2月19日現在、昭和基地を離岸し、アムゼン湾を航行しています。

なお、本コラムは、南極における日本の南極地域観測隊の活動の様子を、第58次南極地域観測隊員である林教授の観測隊生活を通じて、広く社会に広報することを目的に紹介しています(日時は現地日時)。

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昭和基地離岸。アムンゼン湾へ。

【2/14】朝、起きると昨晩、極中間巻雲(夜光雲)が見えたという話を聞く。昨晩は12時半くらいに外に出て、空を確認して眠ってしまった。そのあと夜光雲が見え始めたらしい。非常に悔しい。アラスカで見たが、最近は南極でも見えるということを聞く。近いうちに再挑戦しよう。

【2/15】朝、昭和基地一番のヘリコプターで隊長は昭和基地に向かった。今日は昭和基地に残っていた57次越冬隊、58次夏隊の最終メンバーのピックアップ。同時に、しらせの昭和基地離岸の日である。昭和基地は58次越冬隊の31人だけの1年間の生活、活動が始まる日である。おそらく感慨深いだろう。しらせは、昭和基地のある東オングル島の見晴らし岩が見える場所にいる。越冬隊員は、しらせへのヘリを見送ったあと、見晴らし岩に駆け付ける。そして、「さようなら」の手振りだ。私の昭和基地との別れでもある。

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蓮葉氷

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クジラの尾

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氷板から飛び立つキョクアジサシの群れ

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ハロー

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海底重力計

【2/16】北上を続けたしらせは、午前中にはリュッツォ・ホルム湾を出て海洋観測点へ向かう。氷山、氷板の間隔があくようになり、また、夏を終えてだんだん寒くなってきた南極では、海水面が凍結して、小さな氷板が成長するようになる。これが、「蓮葉氷」(写真)と呼ばれる海氷の赤ちゃんだ。ところどころ、蓮葉氷が成長して海水面を埋めているところがある。この上に雪が積もって海氷は厚くなっていく。

昼過ぎには、しらせは氷海を離脱した。うねりにしらせが動揺する。一面の青い海。久しく見なかった景色だ。この氷海との境界のところでクジラの群れに出会う。何頭いるのか分からない。クジラの潮吹きが同時に3本、4本、時には7本も上がる。尾びれを堂々と見せゆったりと泳ぐ(写真)。観測隊のみんなは、カメラを持って行列。しらせの周りを海鳥が舞う(写真)。空には、ハローも見えていた(写真)。このあたりの海は、南極海の緑色から、深い青色に変わった。海氷域との境界にクジラがいるのにも理由があるのだろうと思う。

夕食時、56次隊が沈めて2年間4,500mの海底にたたずんでいた海底圧力計(写真)の回収がされた。4,500mの海底から界面まで上がってくるのに、1時間以上。直径が1mそこそこのオレンジ色の物体を大海原で探すのは(もちろん発信機はついているが)、大変なことだ。

【2/17】氷海を離脱したしらせは東へ向かう。東には、低気圧。海が荒れてきた。風速20m/sec、大揺れ。特に前後の揺れ(ピッチング)が大きい。第1観測室は、海面から7階建てぐらいのところにある。船室よりも揺れが激しい。その中でのフィルター交換は、いつもながら、大変だ。

【2/18】本日も大揺れ、昨日に引き続き、06甲板(艦橋の上)のサンプラーの稼働状況のチェックは、危険回避のため見送り。艦橋にまで波が立ち上ってくるので、海水、しぶきまみれだろうなと思いつつ。

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リーセルラルセン山

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太陽柱

【2/19】未明、アムンゼン湾着。揺れもだいぶ収まった。

06甲板から周りを見回すと急峻な山々が並び、その間を氷河が流れている。このあたりは、エンダービーランドと呼ばれているらしい。その中でも最も高い山が、リーセルラルセン山(写真)。堂々たるものだ。地質グループは今日からこのあたりの調査に入る。地球で人間が手にしている岩石の中でも最古の岩石、40億年前の岩石を見つけられる可能性があるらしい。

夕食の後、日没ごろにサンプラーのチェックに06甲板に出た。風向が悪くサンプラーは動いていなかったが、ふと日没の方向を見ると焼けた雲を貫くように太陽柱(写真)が。役得というか、仕事をしているとこんな場面にも出くわす。シーロメータのデータを見てみると、高さ1kmから2kmに雲より薄い何かの層が。ダイアモンドダスト(氷晶)か?この氷晶が日没後の太陽光を反射して太陽柱(写真)が見えたようだ。

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