〔研究者コラム〕「さまざまな民主主義のあり方~選挙から考える~(番外編)」―2017年ドイツ総選挙を現地で見て―

福岡大学法学部・東原正明准教授(専門:政治学)のコラム「さまざまな民主主義のあり方~選挙から考える~」の番外編です。今回は、現在オーストリアで研究中の東原准教授が、ドイツ・ベルリンで実際に見たドイツ連邦議会選挙についてお伝えします。

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2017年9月24日、ドイツでは連邦議会選挙(Bundestagswahl)が行われました。在外研究中のウィーンからベルリンまでは飛行機で1時間20分ほどと、福岡から東京に行くよりも近く、注目される選挙を直接見る機会を得ることができました。

投票所の小学校(Grundschule)

投票所の入り口

今回は、小学校に設けられた投票所を見学させてもらいました。訪問した学校では、授業で使われている小さな教室が投票所となっていて、子供たちのためにたくさんの飾り付けがされていました。有権者は、自分の割り当てられた教室(投票所)を訪れ、事前に送られている投票券と身分証明書を示して、投票用紙を受け取っていました。

ドイツの連邦議会選挙に関しては、「有権者は二票持ち、比例区の政党と小選挙区の候補者に投票する」と説明されます。ただ、投票用紙は一枚のみで、有権者はこの一枚の投票用紙上で、比例区の投票と小選挙区の投票を行います。すでに投票用紙に印字されている政党名や候補者名のうち、自分が選ぶものに「×」印をつけることで、自らの票を投じることになります。

ドイツの選挙制度は基本的には比例代表選挙で、18時になるとテレビで各党の得票予測が発表されます。この予測は順次修正されますが、最終的な投票結果と比較しても精度は高いと言えるでしょう。

各政党は、党員などを集めた広い会場でその結果を放映し、自党に対する予測が良いものであれば大きな歓声が上がります。同様に民間団体の中にも、会場を借りてテレビの開票速報を見る場を設けることがあります。今回は、若者を中心に民主主義の重要性を訴える活動を行っている団体の会場を訪れました。

「選挙パーティ(Wahlparty)」の案内看板(「民主主義のために!」)

「選挙パーティー(Wahlparty)」と呼ばれるこの集まりでは、右翼ポピュリスト政党「ドイツのための選択肢(AfD)」に批判的な団体が主催者であったこと、そのAfDが多くの議席を獲得する予測であったことから、参加者は非常に静かな、むしろショックを受けているような雰囲気でした。排外主義的な主張を展開するAfDが連邦レベルで議会内政党化し、今後のドイツ、そしてEUの政治にどのような影響を与えるのかは注視していく必要があるでしょう。

また、10月15日に隣国オーストリアで行われた国民議会選挙(Nationalratswahl)についても目を向ける必要があります。オーストリアはヒトラーの母国として知られていますが、この国では1980年代半ば以降、ナチズムとのつながりも指摘される右翼ポピュリスト政党・自由党(FPÖ)が支持を拡大させてきました。

一時的な得票の増減はあるものの、近年では、二大政党である左派の社会民主党(SPÖ)と右派の国民党(ÖVP)に肩を並べる勢力となっています。このFPÖもまた、外国人、とりわけ現在ではイスラムに対して厳しい態度を示し、2015年の難民危機以降は、多くの難民が国内に受け入れられている状況に批判的な国民感情を煽ることに成功しています。今回の国民議会選挙では第三党となったものの、第一党となったÖVPと連立して政権政党化する可能性が非常に高まっています。

ドイツやオーストリアは難民危機の際に多くの難民を受け入れました。この「歓迎の文化(Willkommenkultur)」を批判して、ポピュリスト的な政治手法を使いながら、両国の右翼ポピュリスト政党は支持を拡大しています。そして、ヨーロッパ全体を見渡しても、EUを批判し排外主義的な主張を展開する政党が注目を集めています。

右翼政党(AfD)の選挙看板(「難民詐欺を終わらせろ!」)

選挙では、それぞれの国の事情から、そのような政党が支持を増やしたり、減らしたりすることもあります。仮に事前の予測より選挙での得票が少なかったとしても、その結果だけを見て「右傾化に歯止めがかかった」などと言うことはできませんし、ある一定の規模の支持者を獲得していることには違いありません。選挙という一時の現象にとらわれることなく、各国政治がどのような傾向にあるのか、時間的な幅をもって検討することが必要になります。それによって、たとえばAfDが今後、連邦議会に定着し得るかどうかを展望することも可能になります。

グローバル化が進み、現代世界はさまざまな課題を国家単位で解決することが困難な状況になりました。にもかかわらず、先進資本主義諸国においてナショナリスティックな主張が支持を集める状況をどのように捉えればよいのでしょうか。もちろん、たとえばグローバル化の進展に対する国民の不安と不満の増大がその理由であるとの説明は可能でしょう。しかし、自国中心主義的な主張を展開し、ある政党が国内で支持を集めたとしても、国外からのその政党への評価はまた異なるものになります。

オーストリアの選挙

オーストリアで予想されるFPÖとの連立について、首相となる可能性の高いÖVPの党首は繰り返し「親EU」の立場を強調し、国外からの懸念の払拭に努めています。ドイツやオーストリアの政治について言うならば、右翼ポピュリスト政党が一定の勢力を確保している状況にEUや加盟各国がどのように対応するかも注目する必要があるでしょう。

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<東原准教授の著作>

  • 「オーストリア ―協調民主主義体制の発展と変容―」(津田由美子、吉武信彦編著『世界政治叢書3 北欧・南欧・ベネルクス』ミネルヴァ書房、2011年) 
  • 「オーストリアの脱原発史」(若尾祐司、本田宏編『反核から脱原発へ ドイツとヨーロッパ諸国の選択』昭和堂、2012年) 
  • 「中央集権的な連邦制下の分権的政党 ―オーストリアにおける連邦制と州政治の変容―」(松尾秀哉、近藤康史、溝口修平、柳原克行編『連邦制の逆説? 効果的な統治制度か』ナカニシヤ出版、2016年)

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