〔研究者コラム〕「さまざまな民主主義のあり方」(最終回)~ポピュリズムの時代なのか~

2016年・2017年にかけて欧州・アメリカ等の主要国で首脳を選ぶ選挙が行われています。欧州3カ国とアメリカの選挙制度について、過去に在オーストリア日本国大使館経済班専門調査員を務めたこともある福岡大学法学部・東原正明准教授(専門:政治学)が連載するコラム「さまざまな民主主義 のあり方~選挙から考える~」は今回が最終回です。

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近年、政治を語る上で「ポピュリズム」という言葉を聞く機会がよくあります。それでは、ポピュリズムとは、どのような政治のあり方なのでしょうか。どういった政治家がポピュリストと呼ばれるのでしょうか。

イギリスのEU離脱の是非を問う国民投票で注目されたイギリス独立党や、フランス大統領選挙で決選投票に進出したル・ペン候補が代表を務める国民戦線が代表的です。他には、2000年に政権参加を果たしたオーストリアの自由党もポピュリスト政党であると指摘されています。

政治学者の水島治郎氏は、ポピュリズムを「『人民』の立場から既成政治やエリートを批判する政治運動」であると定義しています。ポピュリストは、「我々」=人民と「彼ら」=エリートや特権層という二項対立に基づいて、自らが「人民」の立場に立っているとして、エリートや特権層を批判します。それとともに、多数である人民の支持を得ている自分たちこそが民主的存在であると主張して、既成政治をエリートに支配されている非民主的なものであると攻撃します。

さらに、オーストリアの研究者は、ポピュリズムは政治的なスタイル、アジテーションの形態などを指すものであると述べています。それゆえポピュリズム概念は、右翼思想とも左翼思想とも結びつく可能性があります。そして現代のヨーロッパでは、右翼思想と結びついたポピュリズム(右翼ポピュリズム)が大きな問題となっています。ヨーロッパでは、右翼ポピュリストの批判対象として既成政治やエリートのほか、EUや外国人などが取り上げられています。

二度の世界大戦を経験したヨーロッパでは、福祉国家が建設され、EUの統合も進んできました。これら右翼ポピュリスト政党がこうした戦後の歩みにどのような影響を与えるのか、今後も注目する必要があるでしょう。

<参考文献>

  • 池谷知明、河崎健、加藤秀治郎編著『新西欧比較政治』(一藝社、2015年)
  • 田口富久治、中谷義和編『比較政治制度論(第3版)』(法律文化社、2006年)
  • 馬場康雄、平嶋健司編『ヨーロッパ政治ハンドブック(第2版)』(東京大学出版会、2010年)
  • 水島治郎『ポピュリズムとは何か 民主主義の敵か、改革の希望か』(中公新書、2016年)
  • アレンド・レイプハルト(粕谷祐子、菊池啓一訳)『民主主義対民主主義 多数決型とコンセンサス型の36ヶ国比較研究(原著第2版)』(勁草書房、2014年)(原著:Arend Lijphart, Patterns of Democracy. Government Forms and Performance in Thirty-Six Countries. Second Edition. New Haven, 2012)
  • Forschungsgruppe Ideorogien und Politiken der Ungleichheit (Wien) (Hg.), Rechtsextremismus. Entwicklungen und Analysen. Band 1. Wien 2014.

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<東原准教授の著作>

  • 「オーストリア ―協調民主主義体制の発展と変容―」(津田由美子、吉武信彦編著『世界政治叢書3 北欧・南欧・ベネルクス』ミネルヴァ書房、2011年) 
  • 「オーストリアの脱原発史」(若尾祐司、本田宏編『反核から脱原発へ ドイツとヨーロッパ諸国の選択』昭和堂、2012年) 
  • 「中央集権的な連邦制下の分権的政党 ―オーストリアにおける連邦制と州政治の変容―」(松尾秀哉、近藤康史、溝口修平、柳原克行編『連邦制の逆説 効果的な統治制度か』ナカニシヤ出版、2016年)

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