〔研究者コラム〕「交通をめぐる不思議と読み解き方(第2回)」―最近よく聞く「LCC」ってなんですか?―

今回のコラムでは、交通経済学を専門とする福岡大学商学部の陶怡敏教授が、「交通料金」「LCC(格安航空)」「宅配とネット通販」など交通に関するテーマを全5回にわたってお伝えします。

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筆者撮影

「人・物」が国境を越えて移動するには、基本的に、航空輸送の機能を媒介としなければなりません。そして、航空輸送・空港などは将来の経済成長に不可欠な社会インフラであるといえます。今回は、この航空輸送に係るビジネスモデルを、経営戦略の視点から見るとともに、昨今伸長の著しいLCC(格安航空会社)とFSC(日本航空や全日空などの従来型の航空会社)の違いなどについてお話しします。

■LCCとFSCの違い

LCC(エル・シー・シー)、英語の「Low Cost Carrier」の頭文字からそのように呼ばれます。皆さんも、安く旅行をする際になどに利用したことがあるかもしれません。個々のキャリア(航空会社)によって経営戦略が異なるので、的確な日本語を充てることは難しいですが、「低費用航空会社」と訳すのが適切だといわれています。日本国内においても、2012年からピーチ・アビエーション(ANAの子会社)やジェットスタージャパン(オーストラリア・カンタス航空の子会社)などのLCCが登場し「LCC元年」と話題となりました。LCCとFSC(Full Service Carrier)ともに航空機を用いて旅客や貨物を輸送するサービスを行う航空会社である点は共通していますが、FSCで行われていたサービスを簡素化し、運航コストの徹底した削減などを行い、低運賃を実現しているのがLCCです。FSCはグローバル・アライアンス(表1参照)を軸にビジネスモデルを構築していることに対して、LCCは2地点間直行運航を行うことでコストを低減させることに特徴があります(表2参照)。

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(表1)グローバル・アライアンスの加盟航空会社の年間旅客数(筆者作成)

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(表2) 低費用航空会社と従来型の航空会社のビジネスモデルの比較(筆者作成)

■LCCと航空規制緩和

1970年代アメリカで行われた本格的な航空規制緩和を契機に、世界中の航空市場の規制緩和が行われ、多数の新規航空会社が市場に参入しました。参入・運賃規制緩和より路線権・運賃決定が航空会社に任されることで競争、淘汰が起こりました。このような規制緩和や航空自由化の過程で今日のLCCのように、破壊的イノベーションと企業家精神を武器に低費用・低運賃を実現し、FSCと熾烈な価格競争を展開するLCCがあらわれました。LCCというビジネスモデルについてはアメリカのサウスウェスト航空が原型を築いたと言われ、同社は基本的に国内線キャリアでしたが、欧州ではライアンエア(アイルランド)とイージージェット(イングランド)が、EU内の航空自由化を契機として、近距離国際線で新たな需要を創出し、急速に成長してきました。さらに2003年以来、マレーシアを本拠とするエア・アジアがやはり同様のビジネスモデルでマレーシア、シンガポール、タイなどへ進出し、これに対抗して、シンガポール航空、タイ航空、カンタス航空などもLCC子会社を設立、運航を開始しています。

■日本におけるLCCの促進策

日本においても、政府は「2020年の航空旅客のうち、国内線LCC旅客の占める割合14%、国際線LCC旅客の占める割合17%」を目標にLCC参入を促進させようとしています。そのために行っているのが空港の民営化促進です。現在日本の空港の多くは国や自治体が管理しています。今後、滑走路と空港ビルの運営を一体化する「コンセッション方式」などを採用し、民間デベロッパーによる戦略的な料金設定や兼業等を行うことによって、LCCを誘致します。ちなみに、ヒースロー空港など、イギリスの7空港を所有する英国空港会社(BAAplc)においては、競争力のある差別料金を設定する関係から航空系活動に関する収入は、全体の4割程度です。残る6割は、免税店の展開、空港周辺のホテル建設、鉄道の運行など、兼業によるものです。日本でも、関西国際空港などでは、非航空系事業の取り込みが進んでいます。コンセッション方式は2016年10月現在、関西国際空港、大阪国際空港、仙台空港に展開されており、今後さらに増えるものと思われます。関西国際空港においては2012年10月28日に日本初のLCC専用ターミナル「T2」が供用開始されました。

■LCC専用ターミナルの役割

FSCとLCCには、使用する空港にも違いがあります。FSCは利便性の高い基幹空港の利用を中心とするのに対して、LCCはセカンダリ-空港(基幹空港を補完する、多くは都心から離れた空港)を中心とした運航を行っています。LCCはセカンダリ-空港を利用することで空港に対して支払う着陸料、空港利用料などを削減します。アジアの空港の多くは、アメリカやヨーロッパの大空港と比べれば、混雑は決して激しくありません。羽田や福岡、さらに北京と香港も混雑しているもののそれらは例外で、戦略的なインフラ投資して大規模なキャパシティを持つ空港を整備しています。従って、欧米のようにLCCがセカンダリ-空港を利用する必然性は、アジアの一部を除きあまりなく、LCC専用ターミナルの整備で十分と言えます。LCC専用ターミナルの整備には条件が二つあります。一つは、LCC専用ターミナルを拠点とするLCCが必要なことです。もう一つの条件は、LCCの参入が空港の収益に貢献できることです。したがって、コンセッション方式を活用して航空系収入を非航空系収入で補完する空港運営システムが求められます。

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