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〔研究者コラム〕「交通をめぐる不思議と読み解き方(第4回)」―なぜ鉄道会社は不動産開発に力を入れるのか?―

2017.07.07

今回のコラムでは、交通経済学を専門とする福岡大学商学部の陶怡敏教授が、「交通料金」「LCC(格安航空)」「宅配とネット通販」など交通に関するテーマで全5回にわたりお伝えします。

●陶教授の研究実績やプロフィルはこちら
 
<バックナンバーと今後の更新予定>
●第4回:なぜ鉄道会社は不動産開発に力を入れるのか?
●第5回:宅配とネット通販はウィンウィンの関係を築けるのか?(前編)(後編)
 

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旧国鉄が分割・民営化して今年で30年目を迎えました。2016年10月にはJR九州(九州旅客鉄道株式会社)が東証1部に株式上場し、1987年の旧国鉄分割民営化時からの悲願が、30年越しにようやく結実しました。今回は、鉄道事業に係るビジネスモデルを、事業多角化の視点から見るとともに、近年発展著しい鉄道会社の不動産事業の変遷と兼業の経済的論拠などについてお話しします。

■事業多角化戦略

JR九州は新幹線や高級観光寝台列車クルーズトレイン「ななつ星」なども運営していますが、利益の過半を駅ビル・マンション事業など鉄道サービス以外の事業が稼いでいます。2017年3月期の業績見通しでは鉄道サービスで売上高1,736億円、営業利益230億円を見込んでいます。一方、駅ビル・マンション事業は売上高643億円、営業利益211億円、流通・外食サービスおよびホテルを含むその他事業は売上高1,569億円、営業利益47億円をそれぞれ見込んでいます。

現在、子会社6社が駅ビルなどの賃貸業を手掛けています。大型の駅ビル「アミュプラザ」が1988年に小倉、2000年に長崎、04年に鹿児島と開業しました。この集大成が、10年3月開業のJR博多シティです。一方、JR九州が福岡市近郊にマンションの分譲と賃貸を行っています。1989年に初の分譲マンションを販売、98年に初の賃貸マンションをオープンしました。さらに、福岡市中央区「六本松地区」(九州大学跡地)においては、鉄道沿線を飛び越えた地域にさまざまな人がつながり響き合う新しいまちづくりを目指しています(図1参照)。

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(図1)開発中の六本松地区(筆者撮影)

駅ビルの歴史は古く、1920年に竣工した阪急本社ビルディングがその嚆矢(こうし)とされています。阪急梅田駅に開設したこのビルには、阪急電鉄本社オフィスのほか百貨店などが入居し、その後に誕生していく駅ビルの先鞭を付けたのです。阪急電鉄をつくったのは小林一三です。小林は駅ビルとともに、鉄道沿線に住宅地をつくって分譲しました。さらに小林は鉄道沿線に、動物園や新温泉を設け、新温泉では宝塚唱歌隊(後の宝塚歌劇団)の上演までも行いました。そもそも小林のこのビジネスモデルの模範となったのは、アメリカの鉄道建設にあるといわれています。
    
    ■事業多角化の背景

鉄道会社が不動産開発に力を入れる背景として、鉄道事業における運賃規制の存在が挙げられます。国土交通省は鉄運運賃に関して、原則として上限認可制を採用しています。認可運賃は総括原価主義に基づき、能率的な経営のもとにおける適正な原価に適正な利潤を加えた水準で設定されていることから、正常利潤しか認められていません。これは見方によっては正常利潤を保証された規制産業だともいえなくもないのですが、実際には運賃が物価上昇に対して後追い的になっており、しばしば赤字となるのも避けられません。

そこで大手私鉄は、早くから兼業に力を入れて鉄道経営の安定を図ってきました。そのビジネスモデルをひとことでいうなら、鉄道沿線にいかに多くの顧客を誘致するか、ということに尽きます。それは本業の乗客の増加に直結するからです。不動産をはじめ、バスやタクシーなどの交通、百貨店やスーパーなどの流通といった事業によって鉄道会社が自分のサービスする地域の利便性を高め、居住者の増加を促します。また、劇場、スポーツ施設といったレジャー事業は、乗客誘致に効果的です。プロ野球の球団経営もこれに含まれるでしょう。

また、2002年の地域公共交通分野における規制緩和まで、参入規制と内部補助を組み合わせたネットワーク維持政策を採用していたため、特に地方都市では私鉄の多くが赤字路線を抱え込む構造が生まれていました。マイカーの普及で旅客が激減する中、鉄道事業が赤字に転落し、兼業での黒字で鉄道事業を維持せざるを得ない鉄道事業者も少なからず見られました。さらに、本業での利用者を誘致する観点から、JRグループ各社や大手私鉄は、駅構内での商業施設を運営する「エキナカ」や電子マネーを含む「カード事業」にも進出し、地域限定型の顧客基盤を固めています。

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東京ステーションシティ (筆者撮影)

■兼業の経済理論

鉄道の開業に伴い沿線の地価が上昇することから、沿線の土地を開業前に取得し不動産開発を行い、開業後に販売したり、駅ビルを建設したりすることにより、鉄道の開発利益を内部化することができます。東京急行電鉄の田園都市線開業に伴う住宅、スーパーなどの沿線開発はこの典型的なケースです。鉄道事業はたくさんの乗客が乗車することで「規模の経済性」を活かすことができます。空間経済学の視点からみると、規模の経済性と開発利益の2つの問題と密接に関係しています。

例えば、首都圏には幾つもの鉄道事業者が存在していますが、これらの事業者は直接的に競争しているのでなく、それぞれの商圏の中では独占的な地位を占めています、事業者の競争は、隣接する事業者との商圏の境界での乗客の奪い合いや、新規住民の取合いを通じて起きているに過ぎません。このような場合には、競争する事業者の数が増加しても完全競争には近づかず、独占的競争の状態になります。   

このような構造ならびにその帰結は、経済学的には、ヘンリー・ジョージ定理と名付けられています。ヘンリー・ジョージ定理は、規模の経済と不経済とのバランスが「価値」の側面で達成されなければないことを示しています。鉄道サービス生産における規模の経済性を、価格を用いて表したものが鉄道事業者の赤字であり、土地の制約による規模の不経済を価値のベースで表現したものが住宅地代です。この定理によれば、土地100%課税することによって、結果的に鉄道サービス費用をちょうど賄うことができるのです。定理には、19世紀後半に土地の単一課税を主張するヘンリー・ジョージ(1839年米国フィラデルフィア生れの社会運動家)の名前が冠されています。

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