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〔研究者コラム〕「交通をめぐる不思議と読み解き方(第5回)」―宅配とネット通販はウィンウィンの関係を築けるのか?(前編)―

2017.07.26

交通経済学を専門とする福岡大学商学部の陶怡敏教授がお伝えするコラム「交通をめぐる不思議と読み解き方」。最終回となる今回は「宅配とネット通販はウィンウィンの関係を築けるのか?」について、前編・後編に分けてお伝えします。

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●第5回:宅配とネット通販はウィンウィンの関係を築けるのか?(前編)(後編)
 

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便利な暮らしを支えてきた宅配が危機にひんしています。インターネット通販の拡大と人手不足を受けて、宅配最大手のヤマト運輸(ヤマト運輸株式会社)はネット通販最大手のアマゾン(日本法人アマゾンジャパン合同会社)の当日配送受託から撤退する方針を固めた一方で、27年ぶりに基本運賃を今年の10月1日平均15%引き上げることを決定しました。宅配とネット通販の未来はどうなるのでしょうか。最終回の今回は、宅配とネット通販に係るビジネスモデルを、イノベーション戦略の視点から見るとともに、近年成長の著しいヤマト運輸とアマゾンの戦略的提携の条件などについてお話しします。

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■ネット通販と宅配の急成長

ネット通販などの電子 商取引(EC)の市場規模が2016年に15兆円を上回りました。経済産業省の調査によると、市場規模は15年比10%増の15兆1,358億円で、ここ5年でほぼ倍増しています。百貨店市場規模のおよそ2倍にあたります。日本の物販市場全体に占めるネット通販の割合は5.4%(2016年)ですが、中国では12%、アメリカでは7%に達しています。先行する中国並みの12%程度まで伸びれば、国内の38億個超の荷物は90億個を超えます。人手不足の現状では宅配インフラの破綻は避けられません。

ネット通販の普及で宅配個数は急増しています。2016年の宅配便貨物の取扱個数は約38億 6,896万個となり、6年連続で過去最高を更新しました。前年と比べた伸び率は6.4%と8年ぶりの高い水準です。アマゾンがサービスを始めた2000年の5割増です。ヤマト運輸の宅配取扱個数は18億5,000万個で約5割のシェアを持っています。一方、一人暮らしや共働き夫婦が増え、不在で受け取れなかった荷物の無料再配達は輸送量の2割を占め、宅配サービスに携わる労働者の約1割に当たる9万人の労働力が再配達のために費やされています。

■ヤマト運輸のイノベーション戦略

宅配危機は大きな社会経済問題になっているので、企業利益と地域社会の利益を同時に実現する共通価値の創造などの「社会環境」の変革、規制緩和などの「制度環境」の変革、コンビニなどの店頭受け取り・宅配ロッカーの設置などの「市場環境」の改善ならびに物流情報ネットワークによる共同配送システムの構築などの「技術環境」の変革を推進する必要があります。しかし本質的には、物流・商流の社会的イノベーションによる生産性の向上をいかに実現するかがより重要です。宅配危機を乗り越えるための事業戦略を企業イノベーション観点から考えてみましょう。

ヤマト運輸は1927年の路線事業参入、1976年の宅急便誕生に続き、2013年の「バリュー・ネットワーキング」構想を「第3のイノベーション」(当時の木川真社長)と位置づけています。2013年10月に稼働した国内最大級の総合物流ターミナル「羽田クロノゲート」はその象徴です。国内外の物流ネットワークをつなぐ「羽田クロノゲート」は同時に、宅急便のインフラを最大限に活用した法人向けサービスの中核拠点となります。荷主企業が大量に抱える在庫を引き受けるほか、売れ筋や生産計画にあわせて「ジャストインタイム」で完成品や部品を届けます。羽田クロノゲートがその受け皿になります(羽田クロノゲートについてはヤマトホールディングスのウェブサイトに詳しい記載があります)。

■通信販売(BtoC)とのミスマッチ

上述したように、羽田クロノゲートを中核とした「バリュー・ネットワーキング」構想はCtoC(個人間取引)ならびにBtoB(企業間取引)における物流需要を市場軸として明確に設定した戦略コンセプトです。一方で、現在はネット通販のような企業から個人に送るBtoCの取引が主流になり、ミスマッチが生じています。

例えば、アマゾンなどの大手通販は当日配送のために在庫を商圏単位に分散させています。届け先の大半は同一エリアを想定しており、「近い距離を、早く、大量の荷物を運ぶこと」を求めているのです。つまり、全国にくまなく拠点を持ち「全国どこでも翌日配達」が強みの宅急便とは設計思想が異なります。したがって、当日配送のアウトソーシングを受託したい場合はBtoCの「ラストワンマイル(最寄りの配送センターから顧客までの道のり)」をさらに強化できるイノベーションを行う必要があります。

しかし、前述の「バリュー・ネットワーキング」構想を見る限り、羽田クロノゲートを含めたハブ・アンド・スポーク(一度拠点に集めてから分散させる方式)の維持コストが共通費として配送コストに配賦されているようです。ハブ・アンド・スポークの輸送ネットワークで処理される宅配便のコストは大きく、集荷費、拠点間輸送費、配送費の3つに分けられます。その割合を考えると、集荷と拠点間輸送費が不要な通販会社の同一エリア内の宅配は、ハブ・アンド・スポーク型の半分程度の運賃でも不思議ではありません。しかし、料金はそうなっていません。ヤマト運輸の宅急便の例を取ると、80サイズの荷物を関東から関西に送った場合の運賃は税込み1,080円で、関東行きの972円と差はわずかです。

それでは通販業者側はどのような戦略をとっているのでしょうか。後編では、大手通販業者・アマゾンの巨大物流センターを例にその戦略と、通販業者と運送業者がウィンウィンの関係になるための条件についてお話しします。

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