南極通信⑫―第58次南極地域観測隊の活動を写真付きで紹介―(2月5日~10日)

福岡大学理学部・林政彦教授(地球圏科学科)が、第58次日本南極地域観測隊の一員(福岡大学海外研究員)として、平成28年11月末にオーストラリア西海岸フリーマントルで南極観測船「しらせ」に乗船。12月22日、南極大陸に上陸し、約40日間、無人航空機を用いた大気微粒子観測、大気放射・降雪・雪面観測などを実施し、南極大陸上の大気と氷床の相互作用が環境変動に及ぼす影響を調査しました。2月4日にはS17観測地点を後にしました。

なお、本コラムでは、南極における日本の南極地域観測隊の活動の様子を、第58次南極地域観測隊員である林教授の観測隊生活を通じて、広く社会に広報することを目的に紹介しています(日時は現地日時)。

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皇帝ペンギン

しらせで2日間の休養ののち、20年ぶりの昭和基地訪問

【2/5】昨晩は、疲労で早めの睡眠。しらせの朝食は早いので、パス。昼前までゆっくりと休む。のんびりとした一日を過ごす。皇帝ペンギンがしらせの進路方向にいるとの艦内放送が入る(写真)。

【2/6】休養をするが、船上観測の再開準備を行う。船上観測は、建物で言えば6階に相当する05甲板の第一観測室で行っている。階段で上がるが足がだるい。S17に行く前の12月よりはるかにつらい。まだまだ疲れは残っているようだ。第1観測室では船上からS17へ持って行った観測装置の設置を行う。

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管理棟

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旧娯楽棟

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昭和基地全景

【2/7】今日は、昭和基地に行く予定。ヘリは昼食後の13時発予定なので午前中いっぱいかけて船上観測を開始する。

13時しらせを離れて昭和基地に到着。越冬隊以外は夏宿舎(レークサイドホテルという名のたこ部屋宿舎)に入る。20年前の38次隊の越冬明けにも短期間で来たはずであるが、記憶がほとんどない。26年前の32次隊の時以来という感覚。昭和基地には、新しい建物が林立し、様変わりをしていた。象徴的なのが、32次の時土台を作った「管理棟」(写真)。食堂、通信室、医務室、隊長室などが入っている。

夏期間は工事現場そのものという昭和基地の姿は変わらない。短い夏期間にさまざまな建築作業等をこなして、越冬に備える。そんな中で、26年前の32次隊のころに使用した施設が散見される。その中に、バーなどとして使っていた娯楽棟があった(写真)。この建物は、60年前の第1次隊が建てた建物だ。古い建物と新しい建物が混在する現在の基地の姿(写真)に、懐かしさと新しさを感じた。

【2/8】朝、風が強い。夏作業は様子見の様子。午前中は、PCでこれまでチェックできなかった大学のアドレス宛てのメールのチェック、不要メールの削除を行う。午後、32次の時に活動拠点としていた観測棟、それから、45次で建てた清浄大気観測室(通称、エアロゾル小屋、略してゾル小屋)の様子を見に行く。ゾル小屋はドリフトで越冬中に越冬隊員が非常に苦労するということを聞いており、その抜本的な対策をどうするかの検討も兼ねる。

夜は、週2回の昭和基地バー(58次のバーの名称は、ノルウェー語で、「58」)の営業日とのことで、21時過ぎにバーに繰り出す。泡のはいった氷山氷で一杯やりながら、11時までしらせの乗員(ヘリコプターの整備士)と歓談して、宿舎に戻った。

 

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ハチの巣岩

【2/9】朝、予報通りの20m/秒を超える(?)強風。昭和基地は風が強いことが多い。その強風によって作られるのが、ハチの巣岩(写真)。小さな石が風でころころとしながら、石を削りハチの巣状に穴を作る。昭和基地の名物だ。以前は、土産として石を持ち帰ったこともあるが、現在は国際的な取り決めで、石の持ち帰りは禁止されている。

今日は南極授業があるので、「その他大勢」の一人となるために、管理棟へ。この管理棟は、32次の時土台の鉄筋を組んだ思い出の建築物。しっかり立っているようでうれしい。南極授業は、教員同行者の先生の授業だった。生徒のアイデアである生物発電が南極の土壌でも有効だろうか?との比較実験。南極をめぐる環境問題については、環境省レンジャーの隊員からの説明もあった。

午後には、気象ゾンデの放球の見学、マルチコプターを使った建築物の疲労状況調査に同行、超高層大気(概ね50km以上)の大気、光学現象観測用のライダー等の見学。

明日の朝には、ヘリコプターでしらせに戻るので、今晩が最後の昭和基地の夜。「寂しさ」をつまみに、一杯。

 

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昭和基地よさようなら

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氷海の中のしらせ

【2/10】昭和基地を離れる日。朝からいい天気。朝食を取り、紅茶を一杯飲んで、ヘリポートへ向かう。ヘリポートには、58次の越冬隊員も続々とやってきた。11月末に成田空港を出発してから南極まで共に活動してきた私たちを見送りにやってきてくれた。ヘリが飛び立つと横断幕でメッセージをくれた(写真)。彼らは、これから1年昭和基地で暮らすことになる。うらやましいという思いと寂しさとを胸に、私たちを乗せたへりはしらせ(写真)に向かった。

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