南極通信⑪―第58次南極地域観測隊の活動を写真付きで紹介―(1月29日~2月4日)

福岡大学理学部・林政彦教授(地球圏科学科)が、第58次日本南極地域観測隊の一員(福岡大学海外研究員)として、平成28年11月末にオーストラリア西海岸フリーマントルで南極観測船「しらせ」に乗船。12月22日、南極大陸に上陸しました。約40日間の滞在期間中、無人航空機を用いた大気微粒子観測、大気放射・降雪・雪面観測などを実施し、南極大陸上の大気と氷床の相互作用が環境変動に及ぼす影響の解明に挑みます。

林教授からは連日、観測隊の様子について写真とコメントが寄せられています。本コラムでは、南極における日本の南極地域観測隊の活動の様子を、第58次南極地域観測隊員である林教授の観測隊生活を通じて、広く社会に広報することを目的に紹介していきます(日時は現地日時)。

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発電機室

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2/3、燃料ドラム缶をそりに積む

【1/29】昨日からのブリザードが継続。朝、6時過ぎ、トイレに行こうとするが、ドリフトに阻まれる。吹雪の中での除雪。風速18m/秒以上、瞬間最大風速22m/秒以上、視程30m以下。隣の雪上車の視認がやっとの状況。ライフロープを頼りに雪上車や建物の間を移動する。

今日は日曜日でもあるし、強風でもあるため気象ゾンデ観測も見合わせる。外作業もできないので、データ整理や写真整理、休養の昼寝。しかし、建物の周辺にたまるドリフト、発電機室の換気用の吸気ダクトの雪詰まりなどの対応を行う。お昼は、ピザ。午後の中間食(おやつ)はホットケーキなど。気分転換しながらの一日だった。

【1/30】ブリザードが収まり、除雪作業などに追われる。いろいろなところにドリフトが付いている。前回のブリザードの時とは比べ物にならないくらい多量の雪(ドリフト)が付いた。ドリフトや雪まみれになったそりの除雪には、一日を要した。

2月2日にS17を離れる予定にしているが、天気予報では、再び、2月1日から2日にかけて吹雪。除雪作業の傍らで撤収のための荷物の整理、箱詰めを始める。次のブリザードに備えて、ドリフトが付く量を減らすためにそりや雪上車の配置を検討する。

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2/3、雪面の星

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2/4、太陽の周りに現れたハロー(かさ)

【1/31】朝から弱風、微風。気球観測にとっては絶好のコンディション。朝食後にみんなに手伝ってもらって、エアロゾル-オゾン連結ゾンデの放球を行う。ゾンデは、南極の空に再び、きれいに上がっていった。放球後、S17にメンバーは、それぞれの観測の終了作業や荷物の箱詰めに散っていった。私も、気球から送られてくるデータを眺める傍らで、無人機関係およびもう1セットの気球観測関係のアンテナの片付けを行った。この観測で、無人機観測と気球観測、つまり飛翔体観測は終了。地上のエアロゾル連続観測も観測装置の稼働を止め片付けに入る。地上観測装置は、往路同様、復路の昭和基地-シドニー間のしらせの第一観測室での観測に使用することになる。午後からは、明日からの吹雪に備えてできるだけの梱包を行うとともに、ブリザード対策で深夜までそりの移動やライフロープ設置を行う。

【2/1】朝、いつもより遅く、8時半ごろ目覚めると視程が50m程度の猛吹雪。食堂に設置した気象観測装置では風速は16m/秒を超えていた。今回、3度目のブリザードの到来である。16m/秒を超える風だと10トンの重さのある雪上車でさえも揺れる。最近の予報は正確になったとつくづく思う。26年前に越冬したときは、気象隊員は「天気予報ではなく、天気予想です」と前置きをして翌日の天気の見込みを伝えていたのと比べると隔世の感がある。

昨日のうちに雪上車内に移しておいた荷物の梱包を行う。昼ごはんは、お雑煮と焼き餅。観測もおおむね終わり、ややのんびりとした雰囲気で、お餅を焼いていると1カ月遅れの正月を過ごしているような気分になる。

午後にはさらに風が強まり19m/秒を超えるような風となる。予報では、明日の午前6時ごろにかけて風速30m/秒の吹雪となり、明日から3日の朝にかけて、吹雪の状態が継続するとのこと。天気予報を受けて、S17からの撤収は、2月4日に予定すると定時交信(昭和基地やしらせとの間で毎日20時に状況報告や予定の打ち合わせのための無線連絡を行っている)で相談があった。S17を離れる日が目前となった。

【2/2】朝起きると、やはり、猛吹雪。雪上車の後部ドアを開けて外に出ようとするが、案の定、雪が付着していて開かない。ドアに体当たりの感じで強引に開ける。隣の雪上車を確認するのがやっと。視程は30mを切る状態。食堂に向かうが、風はこの観測期間中で一番強い。風速22.5m/秒!!

意外に思うかもしれないが、ブリザードになると気温は高めになり、どちらかというとべたべたの湿り雪が地吹雪として舞う。今朝の気温も-3℃くらい。南極や北極は、日射でもらうエネルギーが少ないために、中緯度や低緯度から熱エネルギーをもらうことになる。それが、南極では北からの暖かい湿った空気であり、低気圧によって一気に運ばれてくる。降雪を作ることで潜熱が放出され、さらに低気圧が強化される。今日のS17の地上気圧は915hPaくらい。昭和基地でも980hPaくらいだろう。台風並みの低気圧で、暖かい湿った空気(日本では、梅雨時に天気予報でよく聞かれる言葉)が運ばれてくる。気温は高いとはいえ、風が強いので体感温度はかなり低い。屋外で小便をする際には手袋を外すが、雪がついて手が濡れると非常に冷たい。冷え切らないうちに手袋を着ける。

23時、相変わらずの猛吹雪。発電機室の吸気ダクトの詰まりが激しい。ダクト内の雪の徹底除去と、ダクト入り口周りの除雪を行う。荷造りが終わる深夜に、再度チェックを行うこととする。南極の洗礼を20年ぶりに受けたと実感する。

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2/4、ピックアップ前にS16にて(林教授)

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2/4、人けのなくなったS17

【2/3】朝、風は15m/秒程度。視程も回復してきた。ほぼ2日間続いたブリザードも行き過ぎようとしている。午前中には風もおさまり、日が差すようになった。穏やかな一日になりそう。と同時に、S17からの撤収のためのさまざまな作業に忙殺される。観測隊が使う燃料ドラムのそり積みもしないといけないが、これは、昭和基地から機械隊員がヘリコプターでやってきて、作業をしてもらった(写真)。

荷物の梱包、運搬、ピックアップ位置への移動などなど5台の10トン雪上車をフル活用。作業の合間の休憩の際に雪面の氷結晶がプリズム効果で色とりどりに光る様子(写真)に見とれる。雪面の星かな?夕食の後も残業を行った。沈まぬ太陽が輝き続けた時期もあったが、今日は22時半ごろ、雲と地平線の間から沈む太陽と赤く燃える夕焼けを見た。南極大陸上で見る夕焼け、日没は、これが最後になるだろう。

南極は厳しさと美しさを併せ持った地域である。明日には、S17を去ることになるが、夕焼けを見ながらしみじみと感じた。

【2/4】S17を引き上げる日。朝から拠点の最後の片付け。11時半に荷物のピックアップのためのしらせからのヘリが飛来。総重量、6トン弱の荷物を4度のフライトで持って行ってもらった。あとは帰るのみ。帰りのヘリが来るまでの約1時間半、基地の様子や大陸の景色をゆっくりと眺める。ふと空を見ると、虹色のハローが見えた(写真)。 そして、雪原を背景に記念写真。

15時半、ピックアップのしらせのヘリに乗り込み、人けのなくなったS17航空拠点、S16内陸旅行拠点を上空から眺めながら(写真)南極大陸を後にした。

もう南極大陸に来ることはないのだろうか、という思いと共に。

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