南極通信⑩―第58次南極地域観測隊の活動を写真付きで紹介―(1月20日~28日)

福岡大学理学部・林政彦教授(地球圏科学科)が、第58次日本南極地域観測隊の一員(福岡大学海外研究員)として、平成28年11月末にオーストラリア西海岸フリーマントルで南極観測船「しらせ」に乗船。12月22日、南極大陸に上陸しました。約40日間の滞在期間中、無人航空機を用いた大気微粒子観測、大気放射・降雪・雪面観測などを実施し、南極大陸上の大気と氷床の相互作用が環境変動に及ぼす影響の解明に挑みます。

林教授からは連日、観測隊の様子について写真とコメントが寄せられています。本コラムでは、南極における日本の南極地域観測隊の活動の様子を、第58次南極地域観測隊員である林教授の観測隊生活を通じて、広く社会に広報することを目的に紹介していきます(日時は現地日時)。

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カイトプレーンの休息

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地球影

カイトプレーンの観測を定常的に行った一週間であった。

【1/20】10時過ぎにカイトプレーン観測を実施。午後、エアロゾル-オゾン連結ゾンデ観測を実施するが、放球直後からデータが正常に受け取れない状況になる。観測車の中を整理していたら、試験用に使っていた電池がないことに気づく。試験用に入れていた電池を正規のものに交換せずに放球してしまった可能性が高い。情けない失敗。

夜は気を取り直して、カイトプレーン観測を実施。とっつきまでの往復飛行を無事にこなした(写真は休息するカイトプレーン)。夜中、日没が見られた。南の方角の雲の隙間からの日没。日没のあとは、北側の空に地球の影が映る「地球影」が見られた。

【1/21】久しぶりに青空が広がった。この中でフライトを試みるが、風が強いため、断念。着陸時に転倒し水平尾翼を損傷、予備のものと交換。午後には、離陸時に強風に煽られて、転倒。主翼を損傷。部分的に交換して再度飛行。とっつき岬を目指すが、コースを大きくそれるため、途中で引き返して、全体チェックを行った。いろいろと起きるが、全体としては、順調な観測を実施できている。

【1/22】今日も一日中いい天気(快晴)。しかし、風が止むことはなく、カイトプレーン観測は実施できなかった。午前中、ゾンデ観測、無人機観測の地上ステーションにしている109号車のガス欠。そろそろ給油をしようとしていた矢先だった。メータが正確でない。(恨み節は置いておいて、)昭和基地にいる雪上車担当者(大原鉄工所)と無線機で連絡を取りながら、ディーゼル車特有のガス欠時の「エア抜き」を行い、無事復旧。こういったトラブルに遭うといろいろと勉強になる。深刻なものでなければ、トラブル対応も楽しむことができる。昼食は、大阪教育大学の小西さんが準備してきたたこ焼きセットで、たこ焼き+お好み焼きパーティ。

【1/23】一昨日からの風の強い状態が、午前中まで継続。午後になって風が弱まったため、カイトプレーンの観測を実施。まだ、上空の風が強いため、フライトコントロールの様子を確認して、早めに下す。夜になって再度観測を実施。風は弱くなってきており、とっつき岬までの観測フライトに成功した。主翼のバランスも問題ないと判断できた。

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霧の中からの帰還

【1/24】いい天気。風もほとんどない。静穏で穏やかな一日。午前は、いつものようにカイトプレーン観測。午後、上空の風の状況を昭和基地に確認(昭和基地では、毎日、午前3時と午後3時に気象を観測するための気球を放球している)。気球浮揚式カイトプレーン観測を実施した。小型ゴム気球で電動式の中型カイトプレーンを吊り下げて放球し、気球を設定高度で分離して帰還させるシステムだ。16時に初の観測。高度1300mで気球からカイトプレーンを切り離し、無事に回収した。17時からは、観測フライトを実施。海抜5000mまで気球で浮揚させて、分離した。カイトプレーンは、順調に飛行して、海抜高度 4kmあたりで、S17上空に戻ってきた。

【1/25】天気は悪くないが、西の方の大陸の縁に沿って、層積雲が形成されている様子が見える。S17に入った12月下旬のころとよく似た風景。この雲と霧のために、昭和基地から打ち合わせに来る予定だった隊員のヘリコプターのフライトがキャンセルとなった。霧は時々深くなったりするが、カイトプレーンによるとっつき岬までの往復観測を午前と夜の2回実施。ヘリは飛ばなくてもカイトプレーンは飛ぶ。大したものだ。夜のフライトの着陸時に脚部を損傷(写真、霧の中からの帰還)。金属疲労が原因だろうと思われる。翌日のフライトも想定して、夜のうちに脚部の交換を行った。

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エビのしっぽ

【1/26】朝、深い霧が出ていた。ロープやアンテナなどには俗にいう「エビのしっぽ」(写真)が形成されていた。過冷却水滴の霧が発生したときに形成されるものだ。朝のうち、降雪もあった。きれいな樹脂状の結晶もあったが、雲粒付きの樹脂状結晶などが多かった。過冷却水滴の雲の中を樹脂状結晶が落ちてきたのだろうか。霧や雲で離着陸に支障があるため、カイトプレーン観測は見合わせた。昭和からの来客も霧や雲のため再度見合わせた。

【1/27】明日から吹雪の予報。無人機観測のチャンスは今日が最後かもしれない。いつものように、9時半からとっつき往復フライト。珍しく南西からの風であったが、飛行時間1時間20分で順調に観測飛行終了。

昼前に気球浮揚カイトの実験を行おうとするが、途中で主翼の骨が折れていることが判明。大至急、予備機の主翼の骨と交換。

その後、16時ころから気球浮揚カイトプレーン「きょくうん」の実験。6km以上の高度は風が強いため、先回同様5kmでの切り離し実験とする。先回とは異なり、上層の風がやや強く、8m/秒程度。2km程度まで下がった状態でようやくS17上空に戻ってきた。観測としては、大成功と言っていい。今後、天候が悪くなる予報のため、これで、カイトプレーン観測を打ち止めとすることにした。

穏やかな日差し(気温は、氷点下だが、日差しがあると暖かい)のもと、夕食は屋外バーベキュー(下写真)。そして、屋外での洗髪。そろそろ、S17からの撤収作業も始めなければ。

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気球浮揚カイトプレーン「きょくうん」と共に

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雪上焼肉大会

【1/28】朝のまだ風がそれほど強くない7時に定例の小型の気象ゾンデ観測(気球観測)を行った。観測終了間近となり、天候が悪くなる予報もあり、カイトプレーンの観測は、今後困難な様相。カイトプレーンや観測車(室)内の物品の整理を始めた。いろいろあったが、カイトプレーンはよく働いてくれたと思う。

昼過ぎぐらいから地吹雪が激しくなり、ブリザード対策の車両配置へ変更、ライフロープを張ったりする。夜、15m/秒を超える風、激しい地吹雪(上を見ると太陽が透けて見える)で、視程は数10m。外出注意令となる。夕食は、ウィグル出身隊員作の郷土料理。民族衣装で、見事な麺さばき。パスタのような麺にホット(ぴりから)な餡(あん)。スープもホットなスープ。ナイステイスト!

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