南極通信⑧―第58次南極地域観測隊の活動を写真付きで紹介―(1月11日~14日)

福岡大学理学部・林政彦教授(地球圏科学科)が、第58次日本南極地域観測隊の一員(福岡大学海外研究員)として、平成28年11月末にオーストラ リア西海岸フリーマントルで南極観測船「しらせ」に乗船。12月22日、南極大陸に上陸しました。約40日間の滞在期間中、無人航空機を用いた大気微粒子 観測、大気 放射・降雪・雪面観測などを実施し、南極大陸上の大気と氷床の相互作用が環境変動に及ぼす影響の解明に挑みます。

林教授からは 連日、観測隊の様子について写真とコメントが寄せられています。本コラムでは、南極における日本の南極地域観測隊の活動の様子を、第58次南極地域観測隊員である林教授の観測隊生活を通じて、広く社会に広報することを目的に紹介していきます(日時は現地日時)。

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蜃気楼

【1/11】午前中、昭和基地からヘリコプターが3回飛来。午後にも1回のフライトがあった。1回目は、気象隊員3人。S17に設置されている無人気象観測装置のメンテナンス、57次隊から58次隊への引継ぎ。昼過ぎには作業を終え、午後3時にはヘリコプターで昭和基地に戻っていった。

2回目のフライトでは、本日出発するH128ポイントでの無人気象観測装置の補修に同行していただくフィールドアシスタント2人、機械担当1人が到着。直ちにH128旅行隊とともに旅行の準備に入り、午前中には、H128へ向けて、雪上車2台で80kmの旅に出た。

第3便では、S17取材の同行者のお二人(RKB毎日放送、共同通信)が来訪した。

午後、4回目のフライトで4人がS17を離れると、一時にぎやかだったS17に残ったのは5人のみ。芳しくなかった天気もほどほどよくなってきていたので、カイトプレーンのフライトを行う。とっつき岬の先の海上まで少し足を延ばし、左旋回をしながら昭和基地方面を画像に収めるというプランでエアロゾルの観測フライトを行った。総飛行距離およそ36km。見事に成功した。機上搭載カメラの画像では、雲の上を飛んでいることなどが確認された。もう、フライトは安心して見ていられる状況となった。ただし、プランニング、運用のミスには注意が必要なことには変わりない。夜は冷え込んできて、深夜0時過ぎには、南から西、北にかけて強い蜃気楼が見られた(写真)。気象計によれば、この夜の最低気温は、-14度。ここへきて一番の冷え込みだ。

 

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ブリザード対策でライフロープを張る

【1/12】午前中は、1km離れたS16内陸旅行拠点へ、雪上車、発電機用の軽油(南極軽油)ぞり(南極通信⑥参照)を引き出しに行く。積雪と日射による融解、その後の凍結を繰り返したそりはがっちりと凍り付き、スコップでの引き出しは困難。ある程度雪を取り除いたところで、雪上車で引っ張って氷から引きはがす。

午後は、天気が悪くなってきた。曇ると光が散乱して雪面の凹凸が見づらくなる。大事をとってカイトプレーンの飛行は取りやめる。その代わりに、エンジンの振動のためデータ取得が困難だった気象ゾンデのカイトプレーンへの搭載方法の再検討、工作を行い、気象データの取得を可能にする。さらに、気球浮揚電動カイトの気球との切り離し機構、観測装置の搭載方法の検討、工作を行った。

【1/13】朝から高い地吹雪と10m/秒を超える風。もう一つの南極らしさを象徴するブリザードが迫ってくる気配だ。こんな状況では、カイトプレーンの飛行はできない。

ブリザード対策を実施。雪上車、そりの配置を調整する。ブリザードになるとドリフトと呼ばれる積雪が雪上車の風下や風上に形成される。その量をできるだけ少なくするよう工夫する。拠点の食堂棟と雪上車の間など日常的に行き来するところに。ライフロープを張る(写真)。かつて、観測隊員が死亡した事故は、ブリザードの時に起きている。H128のサポートに来てくれていた方たちのヘリコプターによる昭和基地へのピックアップが、風速20m/秒の風、高い地吹雪という悪天候のため中止となる。ブリザードが収まるまで、S17は10人の生活となる。

 

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ブリザードでかすむ雪上車

【1/14】午前4時に目が覚める。トイレに行くが視程が極端に悪くなっている。100m以下の視程。15m先の雪上車がかすむ(写真)。小西さんの気象計では、風速20m/秒、最大瞬間風速25m/秒。気温-4度。ブリザードの時は、低気圧が暖かい空気を運んでくるため、気温は思いの外高い。しかし、風が強いので、体感温度は低い。視程も悪く、外出が危ない状態になってきた。

朝8時。朝食の時間。食堂棟の入り口への通路に吹き溜まりの雪が高く積もっている。しかし、風はやや弱くなり(といっても15m/秒)、降雪も減り、視程が良くなってきた。ライフロープなどを外して、除雪作業を行う。

このような状況では、カイトプレーンの観測はできないが、その分、搭載機器の整備など室内作業を進める。

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