〔研究者コラム〕ー「日本の都市が生み出した『闇』を読み解く(第4回)」近代的な幽霊?ー

全7回シリーズで「日本の都市が生み出した『闇』を読み解く」と題したコラムを紹介します。コラムを担当するのは高岡弘幸教授(人文学部文化学科)です。

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先生:江戸時代の半ばに、現代の私たちが想像するような幽霊の原型ができ上がりました。でも、当時の怪談や絵を見ると、それでもやはり画一的に描かれていることが分かります。つまり、幽霊も妖怪たちと同じく、まだまだ類型化、キャラクター化された存在だったのです。それが、さらに大きく様変わりするのは、明治時代になってからのことです。

―明治時代ですか?

先生:明治時代に欧米の文化がどっと流れ込み、生活文化でも近代化が進みます。近代化とは、科学的・合理的な思考の教育によって達成されます。そこで、明治以前の文化は非科学的な迷信に満ち満ちたものとして廃棄されることになりました。そうすると、妖怪は非科学的な迷信の最たるものですよね。妖怪が撲滅の憂き目にあったのは、そういう理由からです。

―なるほど。でも変な言い方ですが、妖怪の仲間である幽霊は「生き残った」んですよね?

先生:そこに、近代以降の幽霊の特徴があるのではないか。近代は、ことさら「私」や「自我」を強調する時代ですよね。

―そうか、フロイトの精神分析や日本独自ともいえる「私小説」の発展とかですね。

先生:はい。あくまで類型化、キャラクター化されたに過ぎない存在であった幽霊に、近代的な「自我」や「私」という性質が与えられることになる。幽霊が個性を持つ時代が到来したと言ってもいいでしょう。だからこそ、近代以降、今に至るまで、幽霊が生き残っただけではなく、むしろ元気に増殖した(笑)。私たちが想像し、創造する幽霊は、近代的自我観や「私」の産物かもしれません。このあたりのことは、作家の京極夏彦さんが強調されていて、とても興味深く、重要な点なので、私なりに考察を重ねていきたいと考えています。

―幽霊が、実は近代的な創造物なんですか? またまた驚いてしまいました。

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