〔研究者コラム〕ー「日本の都市が生み出した『闇』を読み解く(第1回)」都市と幽霊ー

今回から全7回シリーズで「日本の都市が生み出した『闇』を読み解く」と題したコラムを紹介します。コラムを担当するのは高岡弘幸教授(人文学部文化学科)です。

高岡教授のプロフィルや研究情報等はこちらをご覧ください。

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―こんにちは。高岡先生は、妖怪を研究されていると伺いました。珍しい研究分野ですよね。さて、夏といえば妖怪や幽霊の季節です! いろいろ教えてください。

先生:こんにちは。実は、専門は幽霊研究の方なんですが(笑)。でも、妖怪や幽霊は夏ばかりとは限りませんよ。例えば、「雪女」は厳冬期限定ですよね。いつの間にか、妖怪や幽霊は納涼のためのアイテム、日本の夏の代名詞になってしまったんですよ。まあ、背筋がゾッと凍りつくので、暑い夏には最適かもしれませんね。

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(写真)研究室で、幽霊や妖怪について教えてくれる高岡先生

―なるほど。ところで、先ほど先生は幽霊研究がご専門だとおっしゃいましたが、どういうことなんでしょうか?

先生:もともと、私は学部・大学院時代から民俗学や文化人類学の立場より、主に日本の「都市文化」を研究してきました。私の大学院以来の恩師が妖怪研究の総帥などと呼ばれるような偉大な存在なので、妖怪研究は敬して遠ざけてきたわけです。ところが、10年ほど前、当時勤務していた県立高知女子大学で、学生さんたちがどうしても妖怪を研究したいと言うので、ついうっかりと足を踏み入れてしまった(笑)。学生さんたちと高知の江戸時代の資料を集めてみると、びっくりです。おおざっぱに言うと、河童は川筋や水田地帯、天狗は山と、キャラクター化された妖怪たちは、自然豊かな「田舎」に生息、出没します。それに対し、人の死霊である「幽霊」は、城下町の中心部にしか現れなかったのです。

―不思議ですね! それはなぜなんでしょうか?

先生:妖怪たちは自然への畏敬心が形象化されたものです。しかし、都市は自然から遠く離れ、人間しかいない。とすると、人にとってもっとも怖い存在は人ということになりますよね。この違いについては次回に詳しくお話ししましょう。

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(写真)妖怪が出る地域を示したマップを見せてくれる高岡先生

―やっぱり昔の人は迷信深かったんですねえ。

先生:いえいえ、とんでもない。科学がこれほど進んだ現代でも、いまだに幽霊の存在を信じている人は少なくないですよ。昔も今も迷信深さはそれほど変わっていないんじゃないか。むしろ、現代では他人に対する恐怖心が、かつてよりも格段にすさまじいものになっているかもしれませんよ。

―そうですねえ。出口の見えない不況の中で、私たちの心は荒んだものになっているかもしれませんね。 

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