〔研究者コラム〕ー「お酒をめぐる人と自然(第2回)」清酒の造りと「人」後編ー

全5回シリーズで「お酒をめぐる人と自然」に関するコラムを紹介しています。コラムを担当するのは二宮麻里准教授(商学部)です。

二宮准教授のプロフィールや研究情報等はこちらをご覧ください。

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前編では、伝統的な酒造りに回帰する酒造業の現状についてお話ししました。後編では株式会社杜の蔵(福岡県久留米市三潴町)での清酒製造の工程を紹介します。

①精米 

酒米の表面の脂肪分やタンパク質を削ります。この作業によって、よりすっきりとした味わいのお酒になります。中には、米粒の60%以上を削り取るお酒(精米歩合40%以下)もあります。摩擦熱でお米が割れてしまわないよう、時間をかけて丁寧に行います。精米歩合40%だと、精米に120時間かかります。

②洗米・吸水(浸漬〈しんせき〉)

水流で10㎏ずつお米を洗ってから、吸水させます。目的とする酒質に近づけるため、品種、気温、水温を考慮して適切な水分含有量を逆算します。電光表示板を見ながら、秒単位の作業です。

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写真)洗米。後ろに見えるのは、今年から設置した陸上競技用の電子掲示板

③蒸米 

巨大な蒸籠(甑〈こしき〉)でお米を1時間蒸します。

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写真)蒸米終了。蒸しあがり時には、蔵中にお米の蒸気が立ち込め、「炊き立てごはん」のような甘い香りに包まれます

④こうじ造り(製麹)

蒸したお米を、室温30℃、湿度60%前後に保たれた麹室(こうじむろ)に入れ、小まめに温度管理をして、こうじ菌をお米に「生えさせ」ます。約2日間、昼も夜も、写真のように、3時間ごとに「お世話」をします。こうじ菌が付いたお米が、「こうじ」となります。こうじには、蒸米のでんぷんの分子を小さく分断する酵素が蓄えられています。

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写真)レンズが曇るほどの湿度です。作業をすると半袖でも暑いほどです。

⑤酒母(酛〈もと〉)造り

水、麹と蒸米、さらに酵母を加えて、いよいよ、お酒の酛(もと)を造ります。こうじに含まれた酵素の力で、蒸米のデンプンを小さく分断してブドウ糖にし(糖化)、そのブドウ糖を酵母が食べてアルコールを発酵させて清酒は造られます。この発酵プロセスを「並行複式(へいこうふくしき)発酵」と呼びます。

慎重に温度を調節して、タンクの酵母を培養させます。酵母の培養を順調に進めるために、容器を氷で冷やしたり(写真参照)、お湯で温めたりして、2週間見守ります。

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写真)この写真のように、氷で冷やしたり、逆にお湯で温めたりしながら、発酵を促進させます

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写真)酵母によって、アルコール発酵中。酵母は、アルコールと共に二酸化炭素を出すため、泡が立ちます。そして、ほのかにヨーグルトのような甘酸っぱい、いい香りがします

⑥仕込み(「醪(もろみ)」をつくる)

完成した酒母をより大きなタンクに移し、麹、蒸米、水を加えて仕込みます。一度にたくさん仕込むのではなく、3度に分け、酵母の発酵を促しながら、少しずつ量を増やしていきます(三段仕込み)。約1ヵ月かけて、高いアルコール度数(18度から20度)になるまで、発酵を進めます。

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(写真)仕込み。温度を確かめながら酒母に蒸米を入れます

⑦上槽(じょうそう)(搾り)

醪(もろみ)を搾ります。布製の袋に醪を入れ、吊るし、滴り落ちる雫を集める方法や、酒袋を積み重ねて絞る方法などがあります。地下水は、年間通して約17度となっており比較的温かいのですが、雑菌が繁殖しないよう、搾りの作業はあえて「きんきんに」氷で冷やして行います。酒袋を徹底的に洗浄するための準備作業で、10日間行います。

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(写真)酒袋の表と裏を返す作業(2月の様子)

その後、濾過(ろか)、火入れ(加熱)、熟成させ、瓶詰めしてようやく出荷となります。かなり、簡略化した説明なのですが、お酒造りがいかに「手造り」で、大変で時間が掛かるものなのかが、少しでも伝わったことと思います。

昔から酒造りには「和醸良酒(わじょうりょうしゅ)」という言葉があります。「造る人の『和』は良酒を醸し」「良酒は『和』を醸す」という意味です。製造責任者である杜氏(とうじ)以下、みな蔵の人たちは、互いに思いやり、和の心を持って作業している様子が印象的でした。

さて、次回は、清酒と同じ醸造酒である「ワイン」についてお話することにしましょう。お酒造りの舞台は、日本を離れ、ヨーロッパへと移ります。

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(参考文献)

  • 酒類総合研究所編(2002)「お酒のはなし」『酒類総合研究所情報誌』、第1号
  • 二宮麻里(2014)「高度成長期の酒類流通とビール特約店制度の形成」『福岡大学商学論叢』第59巻第1号、近刊予定

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