要介護者や介護をする家族等の負担を軽減するのに欠かせない「介護保険」。しかし、その手続きに不満があってもどうすればいいか分からない人も多いのではないでしょうか。そこで今回のコラムでは、社会保障法を専門とする福岡大学法学部の山下慎一准教授が、介護保険について「法学者の目から見る介護保険」というテーマで4回にわたってお伝えします。
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- 福岡大学市民カレッジにおいて、山下准教授が「介護保険と市民の法意識」を開講します。
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<バックナンバー>
第1回:要介護認定に満足ですか?
第2回:不満があるときは、どうすればいいの?
第3回:不満な人と審査請求の数が合わない!
どうも、山下です。さて、前回(第3回)のコラムでは、「要介護認定に不満を持っているけど、介護保険審査会への審査請求はしない」という人たちは、どういう行動をとっているのでしょうか、というクイズをお出ししました。
その答えは・・・
〔E〕はっきりしたことは分かりません! まさにこれを、現在研究中です。
肩透かしの答えですみません。というのも、これまで、このような点を研究したデータが存在しないためです。ただ、各都道府県への電話とメールでの調査を通じて、幾つか分かってきたこともあります。
まず、〔A〕我慢する、という人もいるだろうと思います。ただ、その人数がどのくらいの数か、あるいはどういう気持ちで我慢しているのかは、実際に調査をしてみないと分かりません。また、〔D〕どうしたらいいか分からない、という選択肢が、当事者の実際の気持ちに最も近いのかもしれません。
次に、〔B〕介護保険審査会は利用せずに、行政に苦情・文句を言う、という選択肢について、この行動をとっている人が最も多いのではないか、というのが私の事前の予想でした。しかし、実際に各都道府県の担当者の方に尋ねてみたところ、案外多くなさそうだ、という印象に変わりました。
最後に、〔C〕裏ワザについてです。介護保険法29条には、要介護者の心身の程度が変化し、現在受けている要介護認定の区分に該当しなくなった場合に備えて、いわゆる「区分変更申請」の仕組みが設けられています。この仕組みが、介護保険審査会に対する審査請求の「代わりの手段」として利用されているケースがあるということを、複数の都道府県の担当者の方から教えていただきました。
上記〔C〕について、もちろん区分変更申請自体は、介護保険法がもともと備えている仕組みです。そして、可能性としては、要介護認定を受けた翌日に心身の程度が変化することもありうるので、1度目の要介護認定に満足できない場合、すぐに区分変更申請をすれば、事実上、要介護認定の「やり直し」のようなことができます。この点で、区分変更申請は、確かに介護保険審査会への審査請求と類似の効果を発揮し得る場面があります。しかし、これが審査請求の代わりに利用されているということは、私にとっては大変な驚きで、「ああ、裏ワザだなあ」と感じられました。
ただし、この「裏ワザ」と、介護保険審査会に対する審査請求の間には、やはり違いが残ります。この違いは、そもそも介護「保険」制度の仕組み自体の正当性と関わってくるだろうと、私は考えています。
・・・といったところで、スペースが終わってしまいました。これからが理屈として面白いところなんですが(笑)。
この続きは、ここ1年くらいの間に、『福岡大学法学論叢』に公表する予定ですので、ご期待いただければと思います(『法学論叢』ほか、福岡大学の論文が読める「機関リポジトリ」はこちら)。また、本コラムのページ内でも告知している福岡大学市民カレッジでも、秘密の(?)データを交えつつお話しする予定です。ぜひ、お誘い合わせの上お申し込み・ご参加いただければ幸いです。
以上、4回にわたってお付き合いいただき、どうもありがとうございました〔本文の責任は、山下慎一に属します。本コラムのイラストは、山下(加賀)愛樹子が担当しました〕。
これからも、福岡大学と福岡大学法学部を、どうぞよろしくお願いします。
山下准教授の著作(リンク先は出版社のウェブサイト)
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共著『憲法判例からみる日本』(日本評論社、2016年)
憲法訴訟が起きた背景を、政治・歴史・文化の視点とかけあわせて読み解きます。山下准教授は第10章を、山梨学院大学の武田芳樹准教授と共同で執筆しています。 -
単著『社会保障の権利救済』(法律文化社、2016年)
イギリスにおける社会保障法領域の権利救済システムを「独立性」と「職権主義」という分析軸を用い、実証的・理論的に解明。日本法への示唆を得るとともに、法的権利救済制度モデルを提示します。
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