〔研究者コラム〕「法学者の目から見る介護保険(第2回)」―不満があるときは、どうすればいいの?―

要介護者や介護をする家族等の負担を軽減するのに欠かせない「介護保険」。しかし、その手続きに不満があってもどうすればいいか分からない人も多いのではないでしょうか。そこで今回のコラムでは、社会保障法を専門とする福岡大学法学部の山下慎一准教授が、介護保険について「法学者の目から見る介護保険」というテーマで4回にわたってお伝えします。

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こんにちは。引き続き、法学部の山下慎一です。まず、①要介護認定を受ける流れと、②認定結果に不満がある場合の争い方を、介護保険法の条文に即して、簡単に確認したいと思います。

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①介護保険の加入者(被保険者)が、要介護認定を受けたいと思った場合には、市町村に対して要介護認定の申請をします。申請を受けた市町村は、調査担当者を申請者のところに行かせて、申請者の心身の状況や置かれている環境などを調査します。この調査は、市町村の職員以外の人が担当することもあります。この調査の結果と、申請者の主治医の意見などを参考にして、最終的に、市町村が要介護認定を行い、申請者に通知をします。要介護認定の効力は、申請日にさかのぼって生じます。

②それでは、申請者が、例えば「こんなに大変なのに、要介護1なんて低すぎる!」と、自分に対して通知された要介護認定に不満を持った場合には、どうすればいいのでしょうか? こういう法的な問題は、やっぱり裁判、でしょうか?

実は、介護保険制度では、要介護認定に関してすぐに裁判を起こすことは許されていません。裁判を起こす前に、まずは、各都道府県に1つ設置されている「介護保険審査会」に対して、審査請求をしなければなりません。

裁判所が、三権(司法・立法・行政)の中の「司法」に属するのに対して、この介護保険審査会は、三権の中の「行政」に位置付けられるところが、注意すべき点です。介護保険審査会の構成員は、被保険者の代表(介護相談員や老人クラブ連合会会長など)3人、市町村の代表(市長や市役所職員など)3人、そして公益を代表する者(病院の院長や大学教員、弁護士など)3人以上となっています。裁判官よりは、身近な人たちが多い気がしますね。

介護保険審査会の利用のための費用は無料であるうえ、審査の手続きも比較的簡易で、迅速に決定を受けることができます。ここでの審査を受けて、なお不満があれば、裁判所に対して訴訟を提起することができます。

・・・というのが法律の定めているルートなのですが、実際には、「介護保険審査会なんて聞いたことがない!」「そんな仕組み、使ったことがない!」という人がほとんどだと思います。

さて、唐突ですが、ここでクイズです。

平成26年度の数値を見てみると、要介護認定の新規の申請件数は、全国合計でおよそ「200万件」でした(厚生労働省調べ)。では、同じ年の、介護保険審査会への審査請求の件数は、全国で何件ぐらいでしょう?

〔A〕20万件 〔B〕2万件 〔C〕2,000件

答えは、次回お伝えします! それではまた。
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山下准教授の著作(リンク先は出版社のウェブサイト)

  • 共著『憲法判例からみる日本』(日本評論社、2016年)
    憲法訴訟が起きた背景を、政治・歴史・文化の視点とかけあわせて読み解きます。山下准教授は第10章を、山梨学院大学の武田芳樹准教授と共同で執筆しています。
  • 単著『社会保障の権利救済』(法律文化社、2015年)
    イギリスにおける社会保障法領域の権利救済システムを「独立性」と「職権主義」という分析軸を用い、実証的・理論的に解明。日本法への示唆を得るとともに、法的権利救済制度モデルを提示します。

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