〔研究者コラム〕ー「噴火史研究から浮かぶ火山のイメージ(最終回)」噴火史研究と防災・減災(桜島火山を例に)ー

全5回シリーズでお届けしているコラム「噴火史研究から浮かぶ火山のイメージ」は今回が最終回となります。コラムを担当するのは、奥野充教授(理学部地球圏科学科・国際火山噴火史情報研究所長)です。

2014 年9月の御嶽山の水蒸気噴火は多くの尊い命が奪われる戦後最悪の火山災害となりました。この他にも2016年2月6日に爆発的噴火を起こした桜島をはじめ、口永良部島や阿蘇山、箱根山で噴火が起こるなど、日本列島の火山は活動期に入ったように見えます。この連載コラムでは、「火山噴火とは何か」という基礎的な話から噴火史の規則性や火山噴火の防災・減災まで取り上げます。

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噴火災害は、われわれ人間が被害を受けて初めて成立しますので、火山と人の距離によって大きくなったり、小さくなったりします。究極の火山防災は、火山に近づかないことです。しかし、温泉や景観といった火山の恵みを考えると近づかないわけにもいきません。

2016年2月6日には桜島火山が約5カ月ぶりに爆発的噴火をして「噴火警戒レベル」が「2」から「3」に上がりましたが、もともと人が近くにいなかったために全く被害はありませんでした。桜島は1955年から爆発的な活動を続けていて、火口に近づけない状況がずっと続いているためです。

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(図1)桜島、昭和火口の噴火(2013年2月撮影)

一方、2014年9月の御嶽山の噴火では、山頂付近に多くの登山者がいたために大きな噴火災害になりました。桜島と御嶽山での被害の違いは、まさに自然現象と人間との距離の差によるものといえます。そこで、未来の火山噴火を「予知」して事前に避難できればいいのですが、「予知」は超能力でもないかぎり難しいことだと思います。

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(図2)

しかし、火山の噴火史を研究すると、ある程度の規則性を見いだすことはできます。このような規則性は、マグマがほぼ一定の割合でマグマだまりに蓄積 されていることを示していて「獅子脅しのモデル」でよく説明できます(図2)。マグマは、獅子脅しの水に当り、通常はその供給率は一定と考えられます。筒が傾いてたまっていた水(マグマ)を落とす(=噴火が始まる)と、最後は元の状態に戻ります(噴火終了)。

噴火規模は、筒(=マグマ溜り)の大きさで決まってきます。ただし、実際の噴火では、獅子落としの場合と違って、溜ったマグマは全て放出されずに終わると考えられます。支点のすべり具合でもたまる量や筒の戻りのタイミングが変わり、供給率が変化すれば、規則性も失われることになります。現在の桜島のように断続的噴火を継続するような活動は、この筒から水がだらだらと漏れている状態だと説明できます。

また、桜島火山に限れば、現在のような山頂または昭和火口で噴火している状態では、これ以上の規模の噴火は考えにくいと言えます。1914年の大正噴火をはじめとする歴史時代の大規模噴火(天平宝字、文明、安永)はすべて山腹噴火でした。すなわち、山腹で噴火が始まれば、これまで以上の規模が容易に予想できるので、地元の人々が今まで築いてきた噴火との距離感も崩れて しまいます。

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