〔研究者コラム〕ー「噴火史研究から浮かぶ火山のイメージ(第2回)」アラスカ・アリューシャン列島でのテフラ研究と考古学ー

全5回シリーズでお届けしているコラム「噴火史研究から浮かぶ火山のイメージ」の第2回です。コラムを担当するのは、奥野充教授(理学部地球圏科学科・国際火山噴火史情報研究所長)です。

2014 年9月の御嶽山の水蒸気噴火は多くの尊い命が奪われる戦後最悪の火山災害となりました。この他にも桜島をはじめ、口永良部島や阿蘇山、箱根山で噴火が起こるなど、日本列島の火山は活動期に入ったように見えます。この連載コラムでは、「火山噴火とは何か」という基礎的な話から噴火史の規則性や火山噴火の防災・減災まで取り上げます。

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アリューシャン列島(図1)には、先住民であるアリュートが残した遺跡が点在しています。その遺跡の地層(文化層)にはテフラ層が挟まっており、かつての火山噴火で彼らも被災し、その後に復興を遂げたことが分かります。テフラ層は爆発的噴火によって上昇した噴煙が風に運ばれ、降下・堆積したものです。その調査から被災状況を明らかにでき、複数の遺跡を同時間面でつなぐこともできます。

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(図1)アリューシャン列島、フォー・マウンテンズ諸島(IFM)の位置。DUT:ダッチハーバー、ANC:アンカレッジ

 

今回の調査地はフォー・マウンテンズ諸島(Islands of Four Mountains)で、日本から飛行機でアンカレッジ(Anchorage)を経由してダッチハーバー(Dutch Harbor)まで行き、そこからは研究船Maritime Maidを利用しました(図2)。

アリューシャン列島は、アメリカ合衆国アラスカ州に属し、太平洋とベーリング海の境となっています。日本列島と同様に太平洋プレートの沈み込みによってたくさんの火山ができています。フォー・マウンテンズ諸島には、カーライル(Carlisle)、ハーバート(Herbert)、クリーブランド(Cleveland)、タナ(Tana)の4つの火山があり(図3,4,5,6)、そのうちクリーブランド火山とタナ火山は陸繋島であるチュギナダック島(Chuginadak)を作っています。

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(図2)ヘリコプターを搭載した研究船Maritime Maid。背景はカーライル火山(2014年7月28日撮影)

 

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(図3)フォー・マウンテンズ諸島の航空写真
(Google Mapによる)

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(図4)南東からみたクリーブランド火山(手前)と
カーライル火山(奥)。クリーブランド火山の山頂から薄い噴煙が立ち上がっている(2015年8月2日撮影)

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(図5)北麓から見たハーバート火山( 2015年7月26日撮影)

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(図6)西側から見たタナ火山(奥)とスコリア丘(手前)。タナ火山から西隣のクリーブランド火山にかけてスコリア丘が点在する(2015年7月27日撮影)

 

アリューシャン列島は寒冷な気候のため、ツンドラとよばれる一面草原に覆われる植生です。地表付近には、完新世とよばれる最近約1万年間の温暖期に堆積した土壌層とテフラ層があります(図7)。このうちの CR-02テフラは、近くの遺跡にも堆積しており(図8)、遺跡の形成途中にこの噴火が起こり、被災後、再びこの遺跡に人々が戻ってきたことを示しています。

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(図7)カーライル火山南麓の海食崖に露出する土壌層とテフラ層。
考古遺跡に挟在するCR-02テフラは、地表近くに産出する(2015年7月31日撮影)

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(図8)カーライル火山南東麓の考古遺跡に挟在するCR-02テフラ。
その上下には黒曜石フレークなどが産する文化層がある(2014年8月14日撮影)

このような調査・研究では、ふだんは静穏な火山でも過去の噴火によって人々被災したことを明らかにし、さらに、テフラ層を時間目盛りにしてどのように復興したのかを知る手掛かりとすることができるのです。

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