〔研究者コラム〕ー「日常で活かす『傾聴』入門(最終回)」傾聴によって何が変わるのか?ー

人文学部教育・臨床心理学科の本山智敬講師がこれまで4回にわたってお届けしてきたコラム「日常で活かす『傾聴』入門」は今回で最終回となります。

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人文学部 本山 智敬 講師

本山講師は臨床心理士であり、病院や学校現場での豊富な臨床経験を持っています。1対1の個人カウンセリング(心理面接)のみならず、エンカウンター・グループと呼ばれる仲間作りの体験学習を高校の授業で行うなど、その実践は多岐に渡っています。

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これまで4回にわたり、傾聴する際のヒントについてお伝えしてきました。傾聴では相手の話を心を使って聴くことが大切で、相手にアドバイスすることは二の次であることも分かっていただけたと思います。しかし、一方で「ただ相手の話を真剣に聴くだけで役に立っているのだろうか」「ただふんふんと話を聴くだけでは足りないのではないか」という疑問が残っているかもしれません。そこで最終回では、「果たして傾聴によって何が変わるのか」について考えます。

■傾聴による話し手の変化

この問いに対し、ロジャーズは端的に次のように言っています。

「私がこれまで述べてきたような治療的な関係をしばらくの間経験したクライエントの変化は、カウンセラーの態度を反映したものになっていく。クライエントは相手が自分の感情に受容的に傾聴していることに気づくにつれて、少しずつ自分自身に耳を傾けるようになっていく」(諸富他訳,2005) 

このことを図に示したものが以下です。聞き手が話し手の語りを表面的に聴くのではなく、心を使って丁寧に傾聴する(①)。すると、そうした聞き手の態度が話し手に伝わり(②)、今度は話し手が自分自身の心の声に耳を傾けるようになっていく(③)というのです。話し手は、聴き手に自分の話を聴いてもらっていると実感することを通して、次第に自分の内面に対して傾聴するようになります。否定していた自分のことを他者から丁寧に聴いてもらうと、その人は聴き手と同じようなやり方で少しずつ否定していた自分に向き合うことができる。つまり、他者からの傾聴によって自分自身への関わり方が変わっていくのです。

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(図)聴き手の態度が話し手に伝わる

いかがでしょう。こちらから何かをしてあげるのではなく、その人が自分に向き合い関わっていけるために傾聴するのだと考えると、その人の悩みをどうやったら解決できるかとこちらがあたふたする必要はなくなります。ロジャーズは、傾聴は何もカウンセラーの特別な技術ではなく、親と子、教師と生徒、上司と部下、先輩と後輩、あるいは友人同士など、あらゆる人間関係で人が成長する時に大事なものだと言っています。皆さんにも自分自身や身近な人たちの幸せのために、ぜひ傾聴を活用していただきたいと思っています。

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  • <関連リンク>
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  • <引用文献>
    『ロジャーズが語る自己実現の道』C.R.ロジャーズ著 諸富祥彦他訳 岩崎学術出版社 2005