〔研究者コラム〕ー「日常で活かす『傾聴』入門(第4回)」心を使うと聴き方はゆっくりになるー

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人文学部 本山 智敬 講師

人文学部教育・臨床心理学科の本山智敬講師が全5回シリーズでお届けするコラム「日常で活かす『傾聴』入門」の第4回です。

本山講師は臨床心理士であり、病院や学校現場での豊富な臨床経験を持っています。1対1の個人カウンセリング(心理面接)のみならず、エンカウンター・グループと呼ばれる仲間作りの体験学習を高校の授業で行うなど、その実践は多岐に渡っています。

本山講師のプロフィルや研究情報はこちらをご覧下さい。

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傾聴について、これまで心理学者ロジャーズが提唱した「中核三条件」と呼ばれる態度のうち「共感的理解(第2回)」「無条件の積極的関心(第3回)」について紹介してきました。今回は最後の一つ「一致(自己一致)」について考えたいと思います。

◆「一致(自己一致)」とは

先にご紹介した二つの態度は、実は聴き手が努力しているだけでは不十分です。話し手が聴き手に「共感してもらっている」「無条件に関心を向けて聴いてもらっている」と感じて初めて成立するものなのです。ではどうしたらそのように話し手に感じてもらえるのか。それに大きく関係するのが「一致(自己一致)」の態度です。

「一致(自己一致)」とは、簡単に言うと「聴き手自身も自分の感情に丁寧に目を向けること」です。話す側は話をしながら同時に色んなことを感じたり考えたりしていますが、同じように聴き手も、話を聴きながらさまざまなことを感じ取っています。「きっと辛かっただろうなぁ」と話し手の辛さが伝わってくることもあるでしょうし、時には「なぜか話がすっと入ってこないなぁ」と感じるかもしれません。

話をうまく聴けているときも聴けていないときも、「あぁ、今自分はこういう風に感じているなぁ」と自分の心に確認し、その気持ちを受け止めながら聴いていると、その態度は話し手に伝わります。

◆「傾聴」が成立する話し手と聞き手の態度

ここで例を挙げてみましょう。職場で不適応感を感じている50代男性の話です。

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50代男性

 

「私、今の職場にいても、本当に居場所がないんです。若い方はみな有能で・・・。見ててホントにすごいんですよ。まぁ、私もそれなりに頑張ってきましたから・・・もうこの職場で30年超えましたから、自分にしかできないこともあるって、思いたいですよ。でも・・・職場にいると・・・感じちゃうんですよね・・・私の居場所はここにはないかもって・・・」  〔諸富(2010)を一部修正〕

それに対し、聴き手のAさんは以下のように伝えました。

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Aさん

 

「そうですか。二つのお気持ちがあるのですね。一方では30年以上お勤めになって自分にしかできないこともあるって思いたい。でも一方では若い人たちが有能で、自分の居場所がないかもっていう気持ちもある。その両方の気持ちがおありなんですね」

Aさんは傾聴のお手本のような応答をされています。「共感的理解」や「無条件の積極的関心」の態度も感じられます。しかし、この応答に何か足りないものがあるとすると、それは何でしょうか。次のBさんの応答からさらに考えてみます。

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Bさん

 

「そうですか・・・2つのお気持ちがあるのですね。・・・もうこの仕事を30年もやってきたんだ・・・自分にしかできない、若手にはできないこともあるって・・・そう思っている・・・そう思いたい・・・けれども一方で、職場にいると・・・どうしても・・・どうしても・・・もう、ここには私の居場所はないんじゃないか・・・そんな風にこう・・・どうしても思えてしまうっていうか・・・」

いかがでしょう。Bさんの応答からは、受け止めた内容の正確さだけでなく、Bさん自身が心で一つ一つ、言葉のニュアンスを確認しながら伝え返しているのが感じられると思います。第1回で「心を使って聴く」と表現したのは、まさにこのことを指しています。心を使って話を聴くと、自然と聴き方がゆっくりになります。聴き取ったことを理路整然と滑らかに語るよりも、聴き手の言葉をかみしめながら「とつとつと」伝え返す方が、話し手は心を使って聴いてもらっている感じがするものです。

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このコラムの内容に関する本山講師の本が出版されます。詳しくはこちら

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  • <引用文献>
    『はじめてのカウンセリング入門 下 ほんものの傾聴を学ぶ』諸富祥彦 誠信書房 2010