〔研究者コラム〕ー「日常で活かす『傾聴』入門(第3回)」聴き上手は質問の仕方が違うー

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人文学部 本山 智敬 講師

人文学部教育・臨床心理学科の本山智敬講師が全5回シリーズでお届けするコラム「日常で活かす『傾聴』入門」の第3回です。

本山講師は臨床心理士であり、病院や学校現場での豊富な臨床経験を持っています。1対1の個人カウンセリング(心理面接)のみならず、エンカウンター・グループと呼ばれる仲間作りの体験学習を高校の授業で行うなど、その実践は多岐に渡っています。

本山講師のプロフィルや研究情報はこちらをご覧下さい。

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今回は、アメリカの著名な心理学者・カール・ロジャーズが提唱する「無条件の積極的関心」についてお話しします。

相手の話を「無条件」に聴くのは、実際はとても難しいことです。私たちは普段「条件付き」で話を聴いていることが多いからです。自分の価値観に沿う話や興味のある話題には自然と耳を傾けることはできますが、自分の価値観に反する話には「そうじゃなくて・・・」と言いたくなりますし、興味がない話題を延々と聴き続けるのも大変です。こちらの価値観や興味にとらわれずに相手の話に関心を向け続けることは、容易なことではありません。

しかし、「無条件の積極的関心」とは、あくまでも聴く際の「態度」ですので、「ひたすら無条件に話を聴かなければいけない」というものではありません。また、分かりやすい「技法(スキル)」でもありません。ただ、「無条件の積極的関心」の態度でいる人の特徴の1つは、聴いている時の<質問の仕方>だと言えます。

例えば、成績が悪かった中学生がこのように話したとします。

「親はきっと、カンカンになると思うんです。前にも怒られたことがあったし。その時『それはあんたが悪いよね。意志が弱いのよ。勉強する気あるの』って言われたんです。一学期の成績は良かったんですけど、今回は全くダメなんです。どうしよう」 

皆さんなら、どんな質問をしますか。「今回成績が悪かったのは何が原因だと思いますか?」とか、「あなたは意志が弱いと言われてどう思いますか?」などが考えられますが、この場合、話の焦点は、「原因」や「意志の弱さ」になります。しかし、この中学生が最も話したいのはそこではなく、「成績の悪さを親に怒られそうで、どうしよう」という気持ちの方です。そこに関心を向けた質問は、以下のようなものです。

「(成績が悪かったことで)今回もまた親に怒られそうだと思ってるんですね」
「親は成績が悪かったことをあなたの意志の弱さのせいにしそうなんですね」

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<マラソンの伴走者>のイメージで

これが「無条件の積極的関心」の態度からの質問。質問というよりむしろ確認といった方が近いです。

第2回でお伝えしたように、<話し手の図形>=ここでは「親に怒られる、どう しよう」という気持ちを丁寧に確認していくような応答になっています。

人によっては、このような質問(確認)では話が進展していかないようで、もどかしく感じるかもしれません。しかし、上述のような質問をすると、中学生はきっと「そうそう、そうなんですよ」と言って、さらに今の気持ちを話し続けるでしょう。

私は、この「無条件の積極的関心」の態度を<マラソンの伴走者>のイメージでとらえています。伴走者は決してランナーの前から引っ張って走りません。常にランナー の半歩後ろにいて、ランナーの様子を見ながらついていきます。伴走者がいることでランナーが気持ち良く走れるように、話し手も聴き手のこうした態度を感じ ながら、自分が話したいように話していくのです。

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このコラムの内容に関する本山講師の本が出版されます。詳しくはこちら

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  • <関連リンク>
    人文学部教育・臨床心理学科の個別サイトはこちら 
  • <参考文献>
    『[新版]ロジャーズ クライエント中心療法 カウンセリングの核心を学ぶ』佐治守夫・飯長喜一郎編 有斐閣 2011
  • <イラスト>
    丸田湖乙音