人文学部教育・臨床心理学科の本山智敬講師が全5回シリーズでお届けするコラム「日常で活かす『傾聴』入門」の第2回です。
本山講師は臨床心理士であり、病院や学校現場での豊富な臨床経験をお持ちです。1対1の個人カウンセリング(心理面接)のみならず、エンカウンター・グループと呼ばれる仲間作りの体験学習を高校の授業で行うなど、その実践は多岐に渡っています。
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<バックナンバー>
第1回:傾聴とは何か?
第3回:聴き上手は質問の仕方が違う
第4回:心を使うと聴き方はゆっくりになる
傾聴というと、ロジャーズの中核三条件(「一致」「無条件の積極的関心」「共感的理解」)が有名です。ここではその一つ一つを、難しい専門用語を使わずにかみ砕いて説明したいと思います。
今回は「共感的理解」について。共感という言葉はよく聞きますが、一体どのような状態のことを言うのでしょう。私はよく、共感とは「話し手の心の中にある図形を2人で共有すること」と表現しています(図1)。
<話し手の図形>とは「相談内容」のことを表す比喩ですが、主にその体験から生じた「気持ち」を指しています。第1回でお伝えしたように、例えばその人の「悲しみ」はどんな形をしているのだろうと想像して、自分の心の中の白紙に描いていくのです。
傾聴とは単に受け身的に聴いているだけではありません。聴き手は「あなたの悲しみを私はこのように受けとめましたが、あっていますか?」と確認したり、「この部分をもう少し説明してもらえますか?」と質問したりします。話し手はそれに答えながら、徐々に2人の間で<話し手の図形>=その人の悲しみを共有していきます。そして、話し手が聴き手に対して「<自分の図形>=自分の『悲しみ』を共有してもらえた」と思えた時こそ、まさに共感が生まれた瞬間なのです。
<話し手の図形>を共有するのは、実際には非常に難しいことです。例えば、話し手と同じような体験が過去にあったならば、いつの間にか聴き手自身の図形がムクムクと出てきて、そこからアドバイスをしてしまうことがよくあります(図2)。
形は似ていますが、これは<話し手の図形>とは違います。まだ<話し手の図形>を共有できていない状態からのアドバイスには、あまり良いことはありません。私たちはつい良かれと思ってアドバイスをしがちなのですが、その前にまずは<話し手の図形>を丁寧に描き取っていくことが大切です。
話し手には最初から自分の図形がはっきりと見えているわけではありません。だからこそ相談をするわけで、聴き手に対してとつとつと話しながら、話し手は自分の図形を少しずつ理解していくのです。傾聴の本質はそこにあると言えます。
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