〔研究者コラム〕「夏季シーズンに身につけよう!『遊泳術』と『自己保全能力』(第1回)」―日本における水泳の歴史―

7月に入り、プール開きや海開きが各地で行われています。今回のコラムでは、競技コーチング・水泳指導が専門の福岡大学スポーツ科学部・田場昭一郎准教授が、「夏季シーズンに身につけよう!『遊泳術』と『自己保全能力』」をテーマに全6回にわたってお伝えします。

  • 田場准教授の研究実績やプロフィルはこちら

<今後の更新予定>

  • 第1回:日本における水泳の歴史
  • 第2回:競技としての水泳
  • 第3回:小学校における水泳指導
  • 第4回:器材を使用した水泳指導
  • 第5回:大学での水泳教育の現状1
  • 第6回:大学での水泳教育の現状2

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ヌードル棒を使った水中エクササイズ

赤ちゃんは、生後8カ月ほどでつかまり立ちができるようになり、14カ月で約9割が歩けるようになります。そのうちに走ることを覚え、リズムよくステップを刻み、ゆくゆくは飛んだり跳ねたり、陸地を自由に駆け回るようになります。

同様に、生後すぐに水中に身を投じ、水に順応していく環境であれば、そのうち自然に浮いたり、沈んだり、潜ったり、ゆくゆくは水中という特殊な環境で水に身を委ねて浮遊し、自ら呼吸を確保することもできるようになるのでしょう。

東洋の島国である日本において、古くから水術(水泳)は古武術の1つとして、「士」と称するものは必ず遊泳の訓練をしていたと伝えられています。遊泳術は、無駄なエネルギーを使わずに、水の流れに身を任せるよう"自然体"でいられることが重要です。

インターネットにおいて「遊泳術に長けている」の語句をキーワード検索すると「狡猾(こうかつ)な」「世渡り上手」「駆け引き上手」「立ち回りのうまい」「政治力に長けた」などの意味が表記されます。水術(水泳)という観点からみた遊泳術は、大海を浮遊する術(すべ)のことで、水に逆らうことなく身を委ね、自然体でいることの術(すべ)を意味します。

つまり、心身ともにリラックスした状態で水に慣れ親しむことを、世の流れに任せて上手に生きていく処世術の例えとしているのでしょう。

日本泳法の研究資料の中の「水泳訓」に以下のような言葉があります。

「水を怖(おそ)れることなかれ」

「水を侮(あなど)ることなかれ」

「水に逆(さか)らうことなかれ」

わが国における水泳は、競泳(競って泳ぐ)ではなく、水術(水中での技を磨き、水と同化して美しく振る舞うさまを身につける)、水練(水という特殊な環境で鍛錬することで自己の保全能力を身につける)という意味合いで歴史的に伝えられてきたようです。

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