〔研究者コラム〕ー「マイナンバーで何が変わるか(第3回〔上〕)」行政の効率化と行政サービスの利便性向上ー

全5回シリーズでお届けしているコラム「マイナンバーで何が変わるか」の第3回(「上・中・下」の3回に分けてお届けします)です。コラムを担当するのは、井上禎男准教授(法学部)です。

井上准教授は、法学部で行政法、情報法を担当しています。行政法の中でも、特に情報法・情報政策が専門分野です。社会的には、経済産業省(原子力関係)や 福岡市などの情報公開・情報保全に関する委員、佐賀県や福岡県内の各自治体での個人情報保護に関する委員、プライバシーマークの審査委員等を歴任していま す。また、個人情報保護に関する審議会・審査会委員の立場から、複数の自治体でマイナンバー、特定個人情報保護に関する評価やその支援業務に携わっていま す。

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■官・行政/民・企業――双方での対応と「効率化」

第1回で個人番号(マイナンバー)制度の目的にふれました。特に社会保障と税の両分野では、これから個人番号"自体"が不可欠になります。行政にとってみると、この分野の事務処理の効率化を図ることができ、この分野での正確な本人確認と状況把握が可能になれば、一定の公平性を担保できるわけです。

しかし個人番号制度は、既存の住基ネット(※1)のように、官・行政のみで完結するシステムではありません。そのため、民・企業にとってみれば、自発的・直接的にこの分野での事務処理の効率化を目指すものでもありません。

そうすると、第2回で概観したような個人番号に関する新たな規範の制定や既存の個人情報等に関するルールとの整合性を図るための再考、また従業員教育や研修等の徹底のみならずハード・インフラ面でも、個人番号に対応する新たなシステムの導入や既存のシステムの変更・統合にかかるコストの負担が(も)新たに生じることになります。既存の情報管理を継続・徹底することに加えて、個人番号にかかる負担とさらなる情報漏えいのリスクを抱えることは、民間事業者にとって非常に酷なことなのかもしれません。しかしそれでも、制度設計上はNOとは言えないわけです。

個人番号制度で問題となる「私」「本人」「個人」の情報は、官(行政)でも民(民間事業者・企業)でもやり取りの対象になります。双方で求められる対応については、新たに設置された国の第三者機関である「特定個人情報保護委員会」が、各部門での「ガイドライン」を公表しています(※2)。民間事業者・企業等も、まずは「ガイドライン(事業者編)」の周知徹底・精査から始めるべきでしょう。

  • ※1:「住民基本台帳ネットワークシステム」
    1999(平成11)年の住民基本台帳法改正に基づき「居住関係を公証する住民基本台帳[氏名、生年月日、性 別、住所などが記載された住民票を編成したもの]をネットワーク化し、全国共通の本人確認ができるシステムとして構築するもの」。第一次稼動は 2002(平成14)年8月、第二次稼動は2003(平成15)年8月。
    詳しくは、総務省の「住基ネット」ウエブサイトを参照 (2015年9月時点でアクセス可能)
  • ※2:特定個人情報保護委員会ウエブサイトに掲載 (2015年9月時点でアクセス可能) 

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