人文学部 本山 智敬 講師
全5回シリーズで「日常で活かす『傾聴』入門」と題したコラムを紹介します。
コラムを担当するのは福岡大学人文学部教育・臨床心理学科の本山智敬講師です。
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私はカウンセリング(心理療法)でいつも相談者の話を傾聴しています。皆さんにもこの傾聴のエッセンスを、ぜひ日常で活かしていただきたいと思っています。
まずは本題に入る前に。皆さんは以下の文章、何のことだか分かりますか?(答えは最下部に記載)
「きしゃのきしゃがきしゃできしゃした。」
「こうかいのこうかいをこうかいしたことをこうかいした。」
引き続きもう一問。この会話が理解できますか。
Aさん「私の孫はおじいさんです。」
Bさん「うちの孫はおばあさんです。」
Cさん「私の娘はサルなんです。」
この会話は、次のDさんの言葉を聞くと容易に理解できます(答えは最下部)。つまり私たちは、同じ読みの言葉を漢字に変換し、会話の文脈を想像して、話し手の言葉の<意味>を理解しようとしながら聞いているわけです。
しかし、実際にはそれがなかなか難しいのです。
「聴」には「目」と「耳」と「心」が入っている
目の前に「悲しい」と言って泣いている人がいたとします。その人が悲しんでいるのは分かりますが、どういう意味で悲しいのでしょうか。何かつらいことが あって悲しいのかもしれませんし、誰もそばにおらず寂しいのかもしれません。あるいは自分のことが情けないと思っているかもしれませんし、もしかすると誰 かに裏切られて腹立たしく思っている場合だってあります。
このように、その人が発した「悲しい」という言葉には、その人なりの<意味>が含まれているのです。その<意味>を十分に理解するためには、丁寧にその人の話を聴いていかなければなりません。
「傾聴」では「聞く」ではなく、「聴く」と表記します。この字には「耳」や「目」が含まれていますが、もう1つ「心」という字も入っています。つまり聴くという行為は、自分の耳と目を使うと共に、自分の「心」も使って相手の話を聴くということなのです。
では、心を使って聴くにはどうしたらいいのでしょう。それはまた次回以降でお伝えいたします。
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<問題の答え>
貴社の記者が汽車で帰社した。
紅海の航海を公開したことを後悔した。
Dさん「うちの息子は桃太郎です。」(劇の役の話をしていた)
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<参考文献>
『心理学に学ぶコミュニケーションの難しさについて』金坂弥起 鹿児島大学FDガイド2013
『言語の社会心理学 伝えたいことは伝わるのか』岡本真一 中公新書 2013 -
<イラスト>
丸田湖乙音