南極通信④―第58次南極地域観測隊の活動を写真付きで紹介―(12月18日~20日)

福岡大学理学部・林政彦教授(地球圏科学科)が、第58次日本南極地域観測隊の一員(福岡大学海外研究員)として、12月20日現在、南極に向かっています。

11 月末に、オーストラリア西海岸フリーマントルで南極観測船「しらせ」に乗船。12月末には昭和基地に近い南極大陸上に観測拠点を設置する予定です。約40 日間の滞在期間中、無人航空機を用いた大気微粒子観測、大気放射・降雪・雪面観測などを実施し、南極大陸上の大気と氷床の相互作用が環境変動に及ぼす影響 の解明に挑みます。

林教授からは連日、観測隊の様子について写真とコメントが寄せられています。本コラムでは、南極における日本の南極地域観測隊の活動の様子を、第58次南極地域観測隊員である林教授の観測隊生活を通じて、広く社会に広報することを目的に紹介していきます(日時は現地日時)。

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ポリニア(氷に囲まれた海水域)

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氷山つらら

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崩れる氷山

【12/18】大きな開氷面に出た。周囲を海氷に囲まれた何10kmあるか、ちょっとわからない大きな開氷面。どうやら、ポリニア(氷に囲まれた海水域)らしい。海水の流れ(深さ方向も含めて)と風がポリニアを作るらしい。ポリニアの周囲には見事なテーブル氷山が並ぶ。高さ100mの氷山もある。よく見ると表面につららが。10mを超す巨大つららだ。

その後は、再び乱氷帯に。その周囲には、崩れかけた氷山が並ぶ。この乱氷帯のブロック状の氷は、この氷山の崩れたものか? しらせは、乱氷帯をものともせずに快調に連続砕氷で進む。

そろそろ、長期の野外活動が始まる。しらせが「年越し準備 餅つき大会」なるものを開催してくれた。雑煮、あんころ餅、きな粉もち、おろし餅、納豆餅...。 野外活動の本格化すると、昭和基地入りも間近。観測隊として全員が一同に会することはなくなる。今晩は、懇親会が開催される。

第1観測室のエアロゾル観測は順調。今日のエアロゾル濃度は本航海中、最低濃度。0.3um以上の粒子濃度が、1000個/liter以下。福岡のエアロゾル濃度の100分の一ぐらい。ポリニア内、あるいは、近くであることと関係があるのか?

 

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地平線をかすめる太陽

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気象ゾンデ放球

【12/19】本日は快晴。この航海一番のいい天気だ。日なたに出ると暖かく感じる。「温泉みたいだね」と言いながら、艦橋脇の風が吹かない場所でくつろぐ。ちなみに、気温は、1度前後。海底圧力計投入を済ませると昭和基地に向かって南下を始めた。昨晩は、北上していたので、おとといの夜とはまた違った真夜中の太陽が見られた(写真)。

気水圏グループの船上気象ゾンデ観測を実施(写真は昨日の放球準備風景)。昨日、今日と24kmを超える高度まで達した。200gというのに、大したものだ。ちなみにこの気球、TOTEXという日本の会社製。国際的に定評のあるメーカーだ。日本らしい素晴らしい会社だと思うが、一般には知られていない。

今日は隊としての行事はなし。夕食は、ビーフステーキ。9のつく日の夕食はステーキというのがしらせの食事の一つの決まり事。そのほかに、金曜の昼はカレー。月曜日の朝食はシリアルも可。水曜日の朝食はパンも可。朝食のシリアルやパンは、20年前の38次隊や、26年前の32次隊のころにはなかったと思う。

 

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行く手を阻む乱氷帯

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逃げるペンギン

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アイスアルジー

【12/20】乱氷帯に突入したしらせは、ヘリによる氷状偵察を行った。氷状偵察中に、しらせに興味を持ったペンギンの群れがしらせの横に群れていた(らしい)。ヘリコプターが帰ってきて音に驚いたペンギンは、一目散に逃げる。しらせはこの後、ラミングを何度も行いながら前進を始めた。

2代目しらせ(このしらせ)は、電動駆動。発電をエンジンで行い、モータで進んでいる。あまり、頑張るとモータが焼けるそうた。レッドゾーンまで頑張るらしいが、無理は禁物。連続砕氷が難しくなると、いったん後退して勢いをつけてアタックし、氷に乗り上げながら自重で氷を砕く。これが「ラミング」。ラミング中は、前も後ろも氷だらけ。

砕かれた海氷の下部はかなり茶色い(写真)。これは、実は微生物(アイスアルジー)。アイスアルジーが一次生産者で南極の海洋生態系は駆動されている。同時にこれらの微生物が出すガスが大気中で酸化されて、南極の夏の主要なエアロゾルとなる。地球の物質循環は生物を抜きには考えられない。

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