福岡大学工学部社会デザイン工学科景観まちづくり研究室が「2019年度グッドデザイン賞」受賞

福岡大学工学部社会デザイン工学科景観まちづくり研究室柴田久教授)が基本設計をした[⼤分 昭和通り・交差点四隅広場のリボーンプロジェクト]が、2019年度グッドデザイン賞を受賞しました。本研究室でのグッドデザイン賞受賞は [大島海洋体験施設 うみんぐ大島]  [警固公園]に続く3回目となります。プロジェクトでは、協議会の発足当初から計画・設計プロセスに参画し、通り全体の整備方針や細部のデザイン検討を行い、施工時には区間全体の設計監理に従事しました。そこで、今回は柴田教授に受賞プロジェクト並びに研究内容についてお話を伺いました。
 

【2019年度グッドデザイン賞受賞概要】※一部抜粋
【受賞対象名】⼤通り/広場 [⼤分 昭和通り・交差点四隅広場のリボーンプロジェクト]
【概要】⼤分市中⼼部にある昭和通りは舗装や歩道橋等の劣化、城址公園沿いクロマツ区間の通りにくさが問題となっていた。また通りには四隅に広場を持つ珍しい交差点がある⼀⽅で、鬱蒼とした植栽が林⽴し、それら四隅広場での⼈の活動は皆無であった。⼤分県は昭和通りの再整備に着⼿し、⼈のアクティビティを促す歩道と交差点四隅の広場化を達成した。
デザイナー福岡⼤学教授 柴⽥久 + 景観まちづくり研究室 吉⽥奈緒⼦、⽥中良季諌⼭裕⽣重吉将伍池⽥隆太郎原⽥⿇⾥ + 株式会社オオバ 松本識史⻄⼝徹
設置場所⼤分市内 国道197号線 舞鶴橋⻄交差点〜寿町1丁⽬交差点の区間
【審査委員の評価】大分の昭和通りと中央通りの交差点の四隅にあった全国的にも珍しい広場の再生計画。敷地は大分県立美術館や大分市役所、県庁などのすぐ近くにあり、人通りは多いものの、鬱蒼とした植栽や、まとまりのないデザインのせいで、活用されているとは言えない状態にあった。ここでは、周辺の丁寧な読み取りを行い、四隅の場所ごとに展示、イベント、交流、休憩など特徴的な機能を持たせた上で、カーブした巨大なベンチを交差点に向けて設けることで、交差点一体をひとまとまりの空間として見事に再生させている。

著作権利者:(C)JDP サイト名:GOOD DESIGN AWARD リンクURLhttps://www.g-mark.org
 

景観設計のデザインポイントについて
デザインのポイントは以下の3点に集約されます。

 1. 歴史あるクロマツを保全し、⾞線減によって歩道を広げる「⾞から⼈」のための街路整備が達成されたこと
 2. 全国的にも珍しい交差点四隅の広場を⼀体的に再整備し、市⺠が快適に滞留できる交通結節点が形成されたこと
 3. 協議会の調整によって整備⽅針が⽴案され、整備前後の調査から広場での活動や評価が確認されていること

本プロジェクトは交差点四隅の広場を含む通り全体の整備で、市民からの要望があったクロマツを残すために道路の一車線をなくし歩道を広げました。つまり、車から人のための街路整備がなされたというのが大きなポイントになると思います。2つ目のポイントとして、グッドデザイン賞でも評価されているのは、全国的にも大通りの交差点の四隅に広場があるというのは珍しく、その広場を一体的に改修したという点です。それまで、この広場は有効活用されていませんでしたが周辺をどんな人が通行しているのか、また、どんな建物が建っているかによって交差点四隅の広場の使われ方はそれぞれで全く違ってきます。そのことを踏まえながら、周辺で生活する人々との関係性とうまく繋げながら広場を設計したことにあると思います。

また今回のような広場を含む大通りの改修事業がグッドデザイン賞を受賞すること自体少なく、九州では初めてだと思います。今までは車中心の社会で、街の中の都市空間もが通りやすい都市づくりになっていたのですが、これからは高齢化社会が進み、人が歩いて暮らす街づくりが見直されてきているところです。つまり、人のための賑わいとか、人がいかに快適に滞留できるかといった空間づくりがとても重要になってきているのです。

景観設計を成功させる上では、利用実態調査や意識調査といった事前調査で利用者のニーズを把握することが非常に大切です。研究室の学生には、利用者の行動を定点観測や広場周辺の歩行者や隣接施設の従業員に直接ヒアリングを行うなどして、徹底的に周辺の事前調査をしてもらいました。実施設計の段階では、学生が主体となって製作した模型を元に実際の設計プランに反映していく作業を行い、学生の担った役割は大きく、実務レベルの仕事に携わってもらいました。

人から街をデザインするということ
人を中心に街づくりを考えるというのが設計する上で最も大切にしていることです。公共の構造物や社会基盤施設は巨大なケースも多く、利用面、機能面等がクローズアップされがちですが、加えてそこに人がどのように滞在し、快適に利用できるか、またそれが周りから見えるかといった「見る、見られる」の関係も重要だと思っています。特に地域の活性化には「人が人を呼ぶ」状況をつくり出せるかは鍵となります。景観工学の講義でも「仮想行動」という理論が出てくるのですが、実際に自分がそこに居なくても、人の存在が見えていて、なおかつその人が気持ちよさそうに佇んでいる様子などが眺められれば、人は自分自身をその人に投影させ、その場所の快適性や居心地を感じさせてくれるというものです。活性化させたい地域の魅力をしっかり伝えていくためにも、人が快適に過ごせる場所づくりに加え、それが風景としてしっかり眺められることも、欠かせない条件だと思っています。

また建物等の単体ではなく「街」として大きな風景をつくり出せるということも、景観設計の魅力だと思います。子供達は大人へと成長していく中で、かつて遊んだ場所の居心地やそこから眺めた景色を「原風景」として記憶に留めることが知られています。そうした意味でも景観設計は、より多くの人に、世代を超えて影響を与えることができるデザイン行為だと思います。公共空間はあくまでも「人が主役」であり、空間や構造物自体の存在感は名脇役に徹するような設計が求められます。例えば今回受賞した昭和通りでは、歩道の舗装材や表面の設え、雨に濡れた時の色目など、通り自体が名脇役として魅力的に見えるかについても検討が重ねられました。人の居心地の良さをつくり出すには「ヒューマンスケール」という尺度も大切で、受賞理由にもあるとおり、四隅広場には人が座りやすい高さ45cmのロングベンチが設置されています。

このように細部に至る検討を重ね、道路や広場などの公共空間が設計されている事例はあまり知られていないかもしれません。今回の受賞を機に、社会基盤施設や公共施設等における日常的な暮らしの場の魅力やデザインを洗練させること、そうした仕事への認知や目指してくれる若者が増えてくれると有難いですね。


<略歴>
1970年 福岡県生まれ
2001年3月 東京工業大学大学院 情報理工学研究科 情報環境学専攻博士課程修了 博士工学)
筑波大学大学院講師、東京工業大学大学院非常勤講師、四国学院大学助教授、福岡大学工学部社会デザイン工学科准教授、カリフォルニア大学バークレイ校環境デザイン学部客員研究員等を経て2014年4月より現職
専門は景観設計、公共施設のデザイン、まちづくり、環境計画
主な受賞歴は2014、2011年度グッドデザイン賞、土木学会デザイン賞2014最優秀賞、2010、2008年度キッズデザイン賞など
著書に『地方都市を公共空間から再生する: 日常のにぎわいをうむデザインとマネジメント』(学芸出版社)(単著)など