今、特に話題となっている「働き方」。今回のコラムでは、労働法を専門とする法学部の所浩代准教授が「長時間労働と労働法」というテーマで5回にわたってお伝えしています。その2回目です。
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第1回:はじめに
第3回:1日の労働時間の上限は?
第4回:月80時間の残業は違法?
最終回:労働者の「いのち」を守る義務
「日本の労働者は働きすぎ」とよく言われます。しかし、「日本の労働者って、どれくらい残業しているの?」という質問が投げかけられたら、すぐに具体的な数字をイメージできる方は少ないのではないでしょうか。そこで、今回は、まず、この質問についてお話ししてみたいと思います。

日本人は働きすぎ?
総務省の「平成24年度就業構造基本調査」によると、正社員のうち、1週間の就業時間が43時間未満であると答えた人の割合は、約36%でした。労働基準法が定める1週間の労働時間の上限が40時間ですから、法が理想とする労働時間に納まっている労働者は、全体の3割強ということになります。つぎに、1週間の就業時間が43時間以上60時間未満と答えた人の割合をみると、約50%となり、このグループが全体の半分を占めます。最後に、1週間の就業時間が60時間以上と答えた人をみると、約14%でした。
ちなみに、他の国の労働者と比較してみると、アメリカのフルタイム労働者の週平均実労働時間は、男性管理職で47時間(女性は42.9時間)、イギリスでは、男性のフルタイム労働者で44時間(女性は40~41時間)、ドイツ は、40.3時間(男女平均)と報告されています[参考文献:独立行政法人労働政策研究・研修機構『ビジネス・レーバー・トレンド2009年3月号』4~25頁。]
日本の労働者が働きすぎかどうかを、他の国と正確に比較することは難しいですが、週の労働時間が60時間を超えている正社員が、14%を超えているという調査結果は、重く受け止める必要があります。週60時間以上の労働ということは、1カ月あたりの残業が80時間以上となります(週休2日勤務の場合、朝9時 から夜10時まで働くことになる)。周知のとおり、労働者の心と体に大きな負担を与えるものです。「いのち」の問題として、長時間労働の解消に取り組む雇用主が増えることを願うばかりです。
所准教授の著作
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『会社でうつになったとき労働法ができること』(旬報社、2014年)
労働時間規制や過労死などに対する補償制度を、分かりやすく解説した本。コラムで紹介している法制度を、さらに詳しく知りたい方におすすめです。 -
『精神疾患と障害差別禁止法~雇用・労働分野における日米法比較研究』(旬報社、2015年)
障害差別禁止法を世界に先駆けて導入したアメリカについて研究した本。日本の障害者法制についても解説しています。じっくり法学の議論を味わいたい方におすすめします。
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