白亜紀の海の爬虫類・モササウルス類の新種に関する記載論文が国際誌『Journal of Systematic Palaeontology』電子版に掲載されました

映画『ジュラシック・ワールド』にも登場し話題を呼んだ白亜紀の海の爬虫類・モササウルス類の新種が、北海道穂別から産出した化石に基づき命名され、その研究に関する記載論文が12月7日に国際誌『Journal of Systematic Palaeontology』電子版に掲載されました。モササウルス類の中でも非常にまれなハリサウルス亜科に属し、このグループのモササウルス類が北西太平洋から産出するのは、今回が初めてです。

むかわ町穂別付近の清流から産したこの新種は、フォスフォロサウルス・ポンペテレガンス(ポンペツ=小川+エレガンス=清い)と命名され、全長は推定3メートル以下です。付近の約7200万年前の地層からは、1985年に、より大型のモササウルス類であるモササウルス・ホベツエンシス(モササウルス亜科)も産出しています。

化石は2009年に現穂別博物館の西村智弘学芸員により発見され、以後2年をかけ慎重なクリーニング作業が行われました。その後、本学理学部地球圏科学科の田上響助教が研究チームに加わり、カナダ・王立ティレル古生物学博物館の小西卓哉研究員(現シンシナティ大学助教)、同アルバータ大学のマイケル・コールドウェル教授、穂別博物館の西村智弘・櫻井和彦学芸員と共に研究を進めました。

今回の発見で最も注目すべき点は、フォスフォロサウルス・ポンペテレガンスの頭部が特異な構造をしていたことです。モササウルス類の頭部は通常鼻先から後頭部にかけ徐々に幅広くなっており、上下方向から見るとワニ型の頭をしていますが、今回発見された化石では、眼の後ろの部分が特に広がっています。これは左右の視野が前方で重なり、両眼視ができる構造です。遠近感を把握できる両眼視は、獲物を追う捕食者に多く見られます。フォスフォロサウルスを含むハリサウルス亜科の体は、同時代のモササウルス類に比べ、細長く、また足ひれや尾びれもあまり発達しておらず、その遊泳能力は高いとは考えられません。

モササウルス類に近縁な現在のヘビのうち、最も両眼視が発達しているグループは、いかなる生息域でも夜行性であることが知られています。単眼視に比べ、両眼視では光源を感知する光の受容体が多いため、暗視に適しています。白亜紀後期の北海道には、イカやハダカイワシの仲間も生息しており、これらの小形動物は発光器を持ち、暗い海でのコミュニケーションなどに使っていた可能性が考えらます。研究チームは、今回明らかになったフォスフォロサウルスの両眼視について、夜行性小型動物を捕食するフクロウのような適応であったと推測しています。中生代の海生爬虫類で夜行性を示唆するのは、今回の研究が初めてとなります。

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フォスフォロサウルス・ポンペテレガンス(穂別博物館所蔵)の頭骨を横方向(左)と前方向(右)からみた図。水色の領域が眼の収まっていた箇所(眼窩)。線画は復元部位(小西卓哉氏作成)