自己の血液成分を利用するがん治療のための「一石三鳥」なテーラーメード製剤を開発

難治性の転移がん治療には、抗がん剤、分子標的薬、免疫チェックポイント阻害薬以外にも、より副作用を軽減できる医薬品として核酸医薬の有用性が期待されています。しかしながら、がん細胞のみに効率よく届ける剤形(標的化)が確立されておらず、実用化に至らないのが現状です。また、核酸医薬は、主成分となる核酸が細胞膜を通過しにくいため、薬物の細胞膜透過性を向上させる容器(薬物キャリア)の研究開発も同時に進められています。
福岡大学薬学部薬物送達学の櫨川舞准教授らの研究グループは、この2つの問題を解決すべく、新しい核酸医薬の開発研究を行ってきました。今回の研究では、がんモデルマウスの血液成分から細胞が産生するエクソソームという脂質二重膜からできた顆粒を抽出し、そこに核酸を封入する薬剤を開発しました。特に、がん細胞の作り出すエクソソームは転移臓器特異的に集積しやすい性質を持つことから、がん患者の血液からエクソソームを回収することで、転移先に効率よく薬物を届けることができる特徴を併せ持っています。この核酸医薬は、がん転移に対する動物実験で既存の薬物を上回る治療効果を発揮しました。
今回の技術は、①転移がんへの特異的集積性、②細胞膜透過性の向上に加え、自己成分を製剤の素材にすることで抗原性の低い③安全な医薬品設計を特徴としています。本製剤は核酸を用いる点においても抗がん剤で懸念される副作用を限りなく抑えることができるもので、今後の新しいがん治療方法として有用なものになると期待されます。
なお、本研究成果は、2022年4月7日(木)付けでスイスの科学雑誌『Pharmaceutics』に掲載されました。
 
『Pharmaceutics | Free Full-Text | Development of an Organ-Directed Exosome-Based siRNA-Carrier Derived from Autologous Serum for Lung Metastases and Testing in the B16/BL6 Spontaneous Lung Metastasis Model』
 
 
  • 【お問い合わせ先】
    福岡大学薬学部薬物送達学 准教授 櫨川 舞
    電話:092-871-6631㈹(内線:6662)
    Email:mhaze★fukuoka-u.ac.jp ※★を@に変えてご送信ください。