プラスチックごみ問題解決を目指し、福岡大学などによるNEDO先導研究事業を開始

革新的マテリアルリサイクル法の構築に挑む

プラスチック産業は全世界で年間3億tを生産する巨大産業です。しかしながらこれまでプラスチックの廃棄処理法が本格的に研究されてこなかったために、無責任に投棄されたプラスチックが世界の多くの地域で環境汚染を引き起こしており、最近では海洋ゴミ、そして海中のマイクロプラスチックが大きな問題となっています。この問題解決手段の一つとして生分解性プラスチックがありますが、使用環境で耐久性を示し、廃棄時に速やかに分解するような素材の開発はなされていないため、根本的な解決法にならないと国連の環境レポートでは指摘されています。従って、この喫緊の課題の解決には、使用済み廃プラスチックの全量回収と再利用・リサイクル技術の確立が不可欠とされています。この中でも廃プラスチックをそのまま原料とするマテリアルリサイクルは、消費エネルギーが最も少ないリサイクル法とされ、推進が求められていました。しかしながら、これまで廃プラスチックを原料にした再生プラスチックはバージン材に比べ大幅に物性が低下するため、マテリアルリサイクルの適用が困難とされていました。またその物性低下の原因は再生不可能な化学劣化とされてきたために、本格的な研究がおこなわれてきませんでした。

一方福岡大学工学部の八尾滋教授(専門:高分子化学・機能性材料)はこのような常識に対して、①「物性低下の原因は内部構造変異による物理劣化である」、②「成形プロセス最適化により物性は大きく向上させることができ、選別精度が良い場合にはバージン並みに再生できる」ことを世界で初めて理論・実験的に明らかにしました。また新たに樹脂溜まりという装置要素を持つペレット製造機器を考案し、実機生産レベルでの高度な物性再生も可能であることも証明しました。

これらの研究成果をもとに八尾教授は革新的プラスチックマテリアルリサイクルを目指し、図1に示すように東京工業大学をはじめとする7つの大学、産業技術総合研究所、10企業からなる研究組織を立ち上げ、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の2019年度先導研究に応募し、この度採択されました[7月24日(水)採択、9月19日(木)契約]。

この研究事業は、図2に示すように、廃プラスチックに対する、選別・分離の高精度・高速化技術と、ペレタイズ時の高性能化再生プロセス技術、及び成形加工時の高特性化技術を開発して、バージン材並みの物性を示す材料に再生する革新的な技術開発を行うものであります。また、これらの開発成果によって得られるリサイクル素材の製品適用可能性を検討するとともに、これら再生材料の利用拡大に向けて、リサイクルプラスチックの標準化の検討を行うことを目的としています。

これら研究開発により、付加価値のあるプラスチックマテリアルリサイクル技術を開発し、高度なプラスチックゴミ問題の解決を目指しています。

なお、9月25日(水)から福井大学で開催される第68回高分子討論会でも、本研究について八尾教授から説明があります。
 

※図1、図2は、こちらをご参照ください。
 

  • 第68回高分子討論会
    会期:2019年9月25日(水)~27日(金)
    ※本研究に関する説明は、9月25日(水)12時45分~13時20分に行われる予定。
    会場:福井大学 文京キャンパス (福井市文京3丁目9番1号)
     
  • 本研究に関するお問い合わせ先
    福岡大学工学部化学システム工学科 教授 八尾 滋
    電話:092-871-6631㈹ (内線:6420)
    FAX:092-864-6031
    E-mail:shyao★fukuoka-u.ac.jp
    メールを送る時は「★」を「@」に変えてください。