再生医療分野に大きな貢献が期待 

酵素処理不要、低温処理不要、簡易で低コストの細胞シート作製法を確立

近年、細胞シートを利用した再生医療が注目されています。例えば、心筋梗塞や心筋症などはこれまでは臓器移植が唯一の根治療法でしたが、最近では障害のある部分に心筋細胞シートを移植するだけで心臓の能力を回復させる治療法が臨床研究されています。しかし、このような治療に適用できる適切な細胞シートを作製する技術には次の3つの課題があります。

課題の1点目は、細胞を培養皿からシート状に取り出す際、酵素を用いた処理を行うと細胞間接着まで分解されてしまうため、シートとして取り出すことが非常に困難ということです(図1)。2点目として、現在の細胞シート作製用の培養皿にプレコーティングされている温度応答性高分子では、シート剝離のために温度を20℃前後に調整する必要があり、細胞に低温負荷を与えてしまうことです(図2)。3点目に、この「細胞シート作製専用培養皿」が、その特殊性により非常に高価であるため、必要に応じた培養プレートを迅速に準備できないことです。つまり、細胞シートを用いた再生医療を本格化するためには、①細胞本来の機能を維持したままシート状に支持体から剥離する、②必要な培養皿を安全かつ迅速に準備できる、③医療費が削減できる、の3点を満足することが重要となります。

今回、福岡大学薬学部免疫・分子治療学教室と工学部化学システム工学科工業化学・高分子教室の共同研究グループがその3つの課題を解決する「細胞シート作製法」を確立しました。本方法は新規の温度感受性表面改質共重合体(ポリマー)を一般的な培養皿にコーティングを施すことで、細胞シートを40℃前後の短時間の加温で回収することができます(図3)。

本技術によって、「酵素処理不要」「低温処理不要」「簡易で低コスト」の細胞シート作製が可能となります。また製品化が実現すれば、再生医療研究においてニーズの高い安全な細胞シートの大量生産が可能となり、臓器作製技術の開発研究を推進することが期待でき、再生医療の発展を介して社会への多大な貢献が期待されます。

・図1から図3はこちらをご覧ください。

  • 共同研究グループ
    福岡大学 薬学部 免疫・分子治療学教室  中島 学 教授・櫨川 舞 助教
    福岡大学 工学部 化学システム工学科 工業化学・高分子教室 八尾 滋 教授・中野 涼子 助教
     
  • 【お問い合わせ先】
    福岡大学 薬学部薬学科 櫨川 舞 助教
    電話:092-871-6631(代)(内線:6658)
    メールアドレス:mhaze★fukuoka-u.ac.jp
    (メールを送る際は、「★」を「@」に変えてください。)