実験-数理科学の融合により環境感知分子TRPチャネルの電気応答の仕組みの一端を解明

~ 体の異常を感知するメカニズムの理解が進むと期待 ~

福岡大学医学部生理学講座の沼田朋大講師らは、生体膜で環境感知を行っている分子である「TRPチャネル」が、実験科学と計算科学の融合研究より開発した機能解析法を用いることで電気刺激に応答する仕組みの一端を解明しました。本研究は、福岡大学大学院医学研究科の井上隆司教授、廣瀬伸一教授、大阪大学大学院医学系研究科の津元国親助教、倉智嘉久教授、京都大学大学院工学研究科の森泰生教授、黒川竜紀助教、金沢大学大学院医薬保健学総合研究科の山田和徳特任准教授、金沢大学付属病院の野村英樹特任教授、川野充弘講師らの共同研究グループによる成果です。

私たちの体は電気信号によって動いています。体を構成する細胞の膜には、体内もしくは外界からの刺激を受け取り、それを電気信号に変換するイオンチャネルがあります。このイオンチャネルは刺激を受けると、カルシウムイオンなどのイオンを透過させることで情報伝達を行い、体を正常に保つように働いています。中でもTRPチャネルは様々な物理化学刺激に応答することが知られていますが、非常にユニークな電位依存性を持つことから、その詳細な電気応答のメカニズムの解明は実験のみでは難しい状況にありました。

共同研究グループは、実験可能な範囲で得られたTRPチャネルの電気応答に関するデータを基に、実験不可能な範囲まで拡張した数理モデルを作成しました。この数理モデル化を進める過程で、実験のみでは発見できなかった新たな電気応答機序を予測し、再デザインされた実験で実証することに成功しました。今回の成果は、生物学実験と数理モデルを用いた理論的アプローチの緊密な連携による融合研究であり、実験のみでは頭打ちであったイオンチャネルの機能解析に重要なブレークスルーをもたらしました。今後、様々な種類のイオンチャネルの機能解析が進むにつれ、体の異常を感知するメカニズムの理解を深めるために必要とされる、新しい方法論的枠組みとなることが期待されます。

本研究は、文部科学省新学術領域研究「多階層生体機能学」(課題番号「23136505」、「25136708」)および独立行政法人日本学術振興会科研費基盤研究(C)22790208の助成を受けて行われたもので、英国の科学雑誌『Scientific Reports』(8月29日号)のオンライン版に8月29日(火)公開されました。

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福岡大学 医学部医学科 生理学講座
  講師 沼田朋大(ヌマタ トモヒロ)、 教授 井上隆司(イノウエ リュウジ)
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E-mail:numata★fukuoka-u.ac.jp  inouery★fukuoka-u.ac.jp
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