コロナからニュー福大へ。私たちが試されている。

 

コロナからニュー福大へ。私たちが試されている。

福岡大学長   
朔  啓二郎


人類の歴史は感染症との闘いでした。人は新型コロナウイルスに免疫がなかったこと、治療薬がなかったこと等が、今回のパンデミックに繋がりました。けれども、私たちはこのウイルス禍から、改めて様々なことを知ることができました。ウイルスは感情を持たない単なる極微小感染性構造体で、人の細胞に侵入してそれを壊します。しかし、私たちは、「命ファースト」の様々な感染予防対策を立てることができるのです。従ってウイルスには負ける必要がないのです。しかしながら、医療の現場では、命の選択をせざるを得ない状況、医療施設や医療従事者の確保の難しさ、働き方も崩壊し、病院経営においても重大な被害が生じ、まさに医療崩壊が起こっています。

私たちは元来、無数の細菌やウイルスと共存し、それらをコントロールしてきました。一つの例をご紹介します。野口英世博士は54歳の時、黄熱病の撲滅のために、アメリカからガーナの首都アクラに単身渡ったのですが、研究途中に黄熱病に感染しました。「濾過器をすり抜ける病原体がある、僕にはどうも分からない」と言葉を残して、6カ月後、黄熱病で死亡します。黄熱病は、蚊によって媒介される黄熱ウイルスによる感染症で、発熱を伴い、重症患者に黄疸が見られることから黄熱病と命名されました。野口博士の時代にはなかった概念、それがすり抜けたウイルスでした。その後、南アフリカ共和国の微生物学者Max Theilerが黄熱ワクチンを開発。その功績によりTheilerは、1951年にノーベル生理学・医学賞を受賞しました。野口博士の死後23年のことでした。その後も21世紀になって2002年に中国からSARS、2012年に中東からMERSなどコロナウイルス感染症が流行しました。

さて、多くの学生、教職員も同じ様に感じているかもしれませんが、今、「コロナ後の私たちが試されている」のではないでしょうか。現下の情勢をニュー福大を創る絶好の機会と考えると、新たな学長提言を伝えることが必要と考えました。本学の中長期計画を公表したばかりですが、そこに盛り込まれていることをさらに具体的にお伝えします。端的に言えば、新型コロナウイルス感染症の長期化への対応・教育や行動変容・今後のリスクマネジメントと「Five Ss」についてです。

新型コロナウイルス感染症の長期化への対応・教育や行動変容・今後のリスクマネジメントと「Five Ss」:

新型コロナウイルス感染拡大防止と経済社会活動の維持の両立は必要ですが、新型ウイルスですので、必然的に長期化します。今回のコロナ禍で、情報基盤の確立が如何に重要であるか皆が実感し理解したはずです。今禍は、教学の方法・方略のみならず、私たちの生活行動にも劇的な変容をもたらしました。今の緊急かつ例外的な進め方で問題がないのであれば、以前の体制や制度に戻るメリットはないので、効率や効果を考慮のうえ、この貴重な体験を生かして前に進めていきたいと思います。具体的には、全学IT教育・BYOD(Bring Your Own Device)化など学内情報システムをグランドデザインに従って運用する、事務作業も同様に業務効率化を目指す、セキュリティを強化する、学生・教職員が情報の共有化を促進する等です。

さて、多くの企業等が大学の卒業生に求めているのは、データサイエンス等の実践スキルや実践マネジメント等で、それに重点を置いた大学の在り様への変化が求められています。時代の進む方向は明確ですから、社会に役立つ個の育成に努める必要があります。社会が、大学が、教育が変化しているのです。人材育成、学生のキャリア形成に関して、チャレンジ支援プロジェクト、英語力強化、企業のビジネスモデルの把握と課題解決、データサイエンス・AIリテラシーの習得における知識力・行動力の促進等の重要性が増してきています。それらを強く意識し、倫理やモラルに関する教育、インターネット講義・双方向性データ配信方式、LMS(Learning Management System:学習管理システム)、eラーニングや遠隔講義を運用・管理する体制強化に力を入れたいと考えます。本学のイノベーション、医療・環境問題、スポーツ振興、地域との連携、データサイエンス等は、SDGsの17のゴールに対応するものです。私は、「Leave no one behind」を目標とし、地球の未来を支え、積極的な若者を育てることに邁進したいのです。ハードではなくハートとツールの確保が重要です。

また、今、医療崩壊を食い止めるという大きな社会的ミッションが本学にはあります。福岡大学病院の本館建替を進めていますが、感染症対応の病床・病棟の確保、感染リスクマネジメント、online診療、災害対応等についてさらに考慮し、本学の財政状況を鑑みながら、一旦立ち止まって新しい医療様式を念頭に手直しして未来型病院建設を目指したいと考えています。加えて、福岡大学西新病院や博多駅クリニックの今後の在り方も新本館構想と共にさらにエビデンスベースで検討し、地域から尚一層信頼される大学病院の在り様を社会に示していきます。医療崩壊阻止のための出口戦略と新しい医療様式の設定に対する一つの考えです。

キャンパス整備は、まず新しいシステムに即したグランドデザインを策定したうえで、スマートなキャンパスづくりに着手します。学生への積極的な経済支援はすでに幾つもの対策を提示しました。

今から15年後の2034年、本学は創立100周年を迎えます。本学の中長期計画に記載したように、本学の建学の精神、「思想堅実」「穏健中正」「質実剛健」「積極進取」について、それぞれ英語で、「Steady」「Sensible」「Sincere and Strong」「Spirited」と略称を付けて「Fukuoka University’s Five Ss」と表現しながら、本学の精神をより分かりやすく、社会にアピールしていきます。

今からの大学改革のキーワードとして、「改善に努力していること」「学生・教職員がそれを知ること」「卒業生・地域社会と共に自分ごと化でき、オールワンチームになること」が大切と考えています。日常的でない建学の精神を日常化する、その解決策として「Five Ss」を提唱しているところです。このような呼び掛けとともに、健全な財政基盤の確立に向けて、「ピンチをチャンスにする」時が来たと捉え、前に進めることと、一旦立ち止まることとを明確に区別したいと思います。これが学長のガバナンス、リーダーシップであると私は考えています。皆さま、よろしくお願いします。