全6回シリーズで、「磁力と省エネルギー」に関するコラムを紹介しています。紹介するのは、理学部物理科学科の眞砂卓史准教授で、研究分野は「物性(スピントロニクス)」です。
眞砂准教授のプロフィールや研究情報等はこちらからご覧ください。
【第5回 「次世代省エネメモリ:Spin-RAM」】
第4回コラムでは、HDDの読み取りヘッドに「磁気トンネル接合」という技法が使われていることについて紹介しました。これをメモリに利用したのが、Spin-RAM(Spin Random Access Memory)です。
現在コンピュータ内で使われている代表的なメモリはDRAMと呼ばれています。DRAMは、キャパシタ(蓄電素子)に電荷(電子)があるかないか(0か1か)で情報を記憶しています。
しかし電荷は徐々に漏れて無くなってしまうため、数十ミリ秒に一度電気を供給し、読み出しと書き込みを繰り返しています。このため、常に電気を供給する必要があり、電源を切るとデータは失われてしまいます。
一方Spin-RAMは、「磁気トンネル接合」で用いる2枚の磁気を帯びた薄膜(磁性薄膜)の磁石の向きが、平行か反平行かで情報を記憶します(図1)。読み出すときは、読みたいメモリ素子に小さな電流を流して抵抗の大小を判別することで情報を得ます(図2)。書き込むときは、書き込むメモリ素子に大きめの電流を流し、片方の磁石の向きを変えることによって情報を記憶します(Spin Transfer Torqueという原理を使っているので、頭文字をとってSTT-RAMとも呼ばれます)。
Spin-RAMの利点は、磁石が記憶した情報を保持しているので、電源を切ってもずっと情報を忘れないことです。つまり、普段メモリに電気を供給する必要がなく、読み出しと書き込みをするときだけ電力を使うので、ノートPCなどのバッテリー駆動時間を大幅に伸ばすことができるのです。

(図1)Spin-RAMの構造
【出典】東北大学 安藤研究室ウェブサイト

(図2)Spin-RAMのメモリセルにおける読み出し原理
【出典】Wikipedia