全6回シリーズで、「磁力と省エネルギー」に関するコラムを紹介しています。紹介するのは、理学部物理科学科の眞砂卓史准教授で、研究分野は「物性(スピントロニクス)」です。
眞砂准教授のプロフィールや研究情報等はこちらからご覧ください。
【第4回 「データ保存の大黒柱:HDD」】
最近はタブレット端末などの流行で、SSD (Solid State Drive)という記憶装置をよく耳にするようになってきました。これは、機械的な動作がなく、データの読み書きが速いという特徴があります。しかし、高価であるため大容量のデータ保存においてはまだまだHDD (Hard Disk Drive)が主流です。最近のHDDは、情報の記録密度が増え、小型化も進み、現在では消費電力も非常に小さくなりました。
HDDは磁石の膜が付いたディスク上に、細かく磁気情報が書き込まれています。近年では、小さな磁石を縦に並べた「垂直磁気記録方式」という方法が用いられています。
図2は、私たちの研究グループで開発された磁気情報を観察できる大変高分解能な顕微鏡を用いて、磁気ディスクの表面を見たものです。多数の白と黒の線が見えていますが、これが情報の0と1に対応します。この白や黒の線幅は、何と20 ナノメートル強(髪の毛の太さの約5000分の1)しかありません。
このような小さな領域から出てくる磁場を高感度に読み取るために、現在は読み取りヘッドとして「磁気トンネル接合」という技法が使われています。読み取りヘッドは、絶縁体(非常に薄いので少し電気が流れる)を2枚の磁気を帯びた薄膜(磁性薄膜)でサンドイッチした構造となっています。
磁場の読み取りは、上下の磁性薄膜の磁石の向きが平行か反平行かで、抵抗が変化する現象(トンネル磁気抵抗効果)を用いて行います(図3、図4)。片方の磁石の向きは固定されており、もう片方の磁石が記録面から出てくる磁場によって回転するので、抵抗の大小で情報を読み取ることができるのです。
HDDに代表される垂直磁気記録方式や、トンネル磁気抵抗効果の発見・発展には、日本人研究者が多大なる貢献をしています。磁気の分野は日本の存在感が非常に大きい分野の一つと言えるでしょう。

(図1)高分解能磁気力顕微鏡の概念図

(図2)HDD表面の磁気観察像

(図3)磁気トンネル接合の断面写真

(図4)信号読み取りの概念図
【出典】(図1)(図2)産業技術総合研究所ウェブサイト、(図3)(図4)物質材料研究機構磁性材料 ユニットウェブサイト