近年、日本のみならず世界中で無差別性や動機の不明性が際立つ犯罪が相次いでいます。そういった犯罪に対し、犯人の性格特性や行動傾向などの解明を通して、犯罪予防や犯罪捜査などを行うのがいわゆる「犯罪心理学」です。
佐賀県警科学捜査研究所研究員の経歴を持つ人文学部文化学科の大上渉准教授が、その犯罪心理学について「目撃証言」「プロファイリング」などに焦点を当て解説してきたコラムは今回が最終回です。
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(バックナンバー)
第1回:イメージが先行する犯罪心理学という学問
第2回:さまざまな形の犯罪心理学
第3回:目撃者の証言
第4回:犯行行動を分類して犯人像を描く
何らかの意図を持って、食品や飲み物に針類や金属片、洗剤などの異物を混入する犯罪があります。これらは「意図的異物混入事件」と呼ばれ、特別な知識や体力などがなくても針一本あれば行える犯罪です。同時に誰もが被害者になり得ることから無差別性が高く、食に対する安全・安心を根幹から揺るがす悪質な犯罪でもあります。
筆者〔大上(2016)〕は1991年~2015年までの間に、スーパーやコンビニ、学校、病院、企業などにおいて発生し、食品・飲料物に異物を混入し、犯人が検挙された100件の事件を分析しました。その結果、混入した異物が異なるとその犯人像も異なることを示しました(図1)。

例えば、針類を混入する犯人の年齢は50代以上、無職の者が多く、動機は日ごろの不満や鬱憤などの解消、スーパーやコンビニ、デパートの生鮮品売り場などで犯行を実行する傾向があります。また飲み物に洗剤を混入する者の多くは10代の生徒・学生であり、買ってきた飲料に自宅で混入します。動機としては、被害者となって親や友人に心配されたい、ブログやYouTube等に投稿し注目されたい、といった事などが明らかになりました。
このように、一見同じと思われる異物混入事件であっても、混入する物によってその犯人像が相違することがお分かりになられたと思います。このような知見は犯罪捜査に大きく貢献することになります。
<引用文献>
- 大上渉(2016) 意図的な異物混入事件の犯人像と犯行特徴 日本犯罪心理学会第54回大会(2016年9月3日―4日、東洋大学)
大上准教授が執筆に関わった書籍が出版されました。
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『心理学ビジュアル百科』(越智啓太編、創元社)
目撃証言やポリグラフ検査、神経生理学的な犯罪原因論などを解説しています。 -
『犯罪心理学事典』(日本犯罪心理学会編、丸善出版)
「目撃証言」と「テロ犯罪」について解説しています。
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