近年、日本のみならず世界中で無差別性や動機の不明性が際立つ犯罪が相次いでいます。そういった犯罪に対し、犯人の性格特性や行動傾向などの解明を通して、犯罪予防や犯罪捜査などを行うのがいわゆる「犯罪心理学」です。
今回のコラムでは、佐賀県警科学捜査研究所研究員の経歴を持つ人文学部文化学科の大上渉准教授が、その犯罪心理学について「目撃証言」「プロファイリング」などに焦点を当て解説します。
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(バックナンバー)
第1回:イメージが先行する犯罪心理学という学問
第2回:さまざまな形の犯罪心理学
第3回:目撃者の証言
一言に殺人といってもその動機はさまざまです。殺しの三大動機と言われる「痴情のもつれ」「人と人の摩擦から生まれる恨み」「金銭トラブル」にはじまり、「介護に疲れ果て」「人生に絶望して」「人を殺してみたかった」「心の中のもう一人の自分に命じられて」・・・といったようにさまざまなものがあります。このように、一つ一つの殺人事件の背景には多様な動機があるのですが、法的には構成要件を満たせば全て等しく「殺人罪」として司法手続きが進められていきます。
しかしながら、犯罪心理学的な見方をすると、殺害の動機や目的が異なれば対象や犯行行動も異なり、当然犯人像も違ったものになります。このような背景に目を向けず、多様な殺人事件をひとくくりに「殺人」と見なしてしまうと、事件の本質を見誤り、捜査に支障を来す恐れもあります。このようなバイアスは、殺人ばかりでなく強盗や放火、強姦などあらゆる罪種で生じます。
近年の犯罪心理学、特に捜査心理学の領域では「犯罪者を分類する」研究が盛んです。心理学のみならず、あらゆる学問は研究対象を分類することから始まるといわれています。研究対象を丹念に観察し、また対象間を比較して、そこから見いだされた共通点や相違点を基準にして分類するのです。
捜査心理学における犯罪者の分類は、統計学的手法に基づいています。特定の罪種(例えば、都市部における連続放火事件や未成年者を対象にした強姦事件など)について数百件以上もの事件データを集積し、犯行行動と犯罪者の特徴(年齢、性別、職業、婚姻歴、前科など)との間に統計学的に関連性を見いだし、それらを基に犯人像をタイプ別にグルーピングします。幾つかのタイプに分類しておくことで犯行行動などからおおよその犯人像を推測できます。いわゆる犯罪者プロファイリングと呼ばれるものです。
次回は、食品への異物混入事件を取り上げ、筆者が犯人像を分析します。
大上准教授が執筆に関わった書籍が出版されました。
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『心理学ビジュアル百科』(越智啓太編、創元社)
目撃証言やポリグラフ検査、神経生理学的な犯罪原因論などを解説しています。 -
『犯罪心理学事典』(日本犯罪心理学会編、丸善出版)
「目撃証言」と「テロ犯罪」について解説しています。
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