〔研究者コラム〕「あまり知られていない犯罪心理学の世界(第2回)」―さまざまな形の犯罪心理学―

近年、日本のみならず世界中で無差別性や動機の不明性が際立つ犯罪が相次いでいます。そういった犯罪に対し、犯人の性格特性や行動傾向などの解明を通して、犯罪予防や犯罪捜査などを行うのがいわゆる「犯罪心理学」です。

今回のコラムでは、佐賀県警科学捜査研究所研究員の経歴を持つ人文学部文化学科の大上渉准教授が、その犯罪心理学について「目撃証言」「プロファイリング」などに焦点を当て解説します。

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では、実際の犯罪心理学とは一体どんな学問なのでしょうか。さまざまなな研究者による定義をまとめると、犯罪心理学とは、犯罪者の行動を心理面から理解・解明し、その知見を犯罪・非行の予防や捜査、更生や立ち直り支援などの専門実務に役立てる学問といえます(Bartol & Bartol, 2006; Davies & Beech, 2012;藤岡,2007;大渕,2006)。

表1に犯罪心理学が扱う4つの領域を示します。私は「捜査心理学」と「裁判心理学」の研究を行っています。

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犯罪心理学の特徴は、実務直結型の学問であることが挙げられます。日本においては、犯罪心理学のいくつかの分野は大学の研究者よりはむしろ専門家集団、例えば犯罪者の矯正や更生保護に関わる分野であれば、法務省の心理技官、また犯罪の予防や捜査に関わる分野であれば、 警察庁や都道府県警の心理研究員らの手により発展してきました。

そこで得られた知見の中には「ポリグラフ検査」(被検査者に事件に関するさまざまな質問を行い、その際の生理反応の変化を調べる検査。もし被検査者が犯人であれば犯行事実に合致した質問を行った際、生理反応に変化がみられる)のように世界をリードするものもありましたが、アカデミックなシーンで語られることは多くなく、どちらかといえば部内で密かに伝承されてきました(越智、2010)。

その理由としては、犯罪や犯罪者を研究対象としているために慎重な情報の取り扱いが求められたからです。そのため、犯罪心理学の研究知見が社会に還元される機会が少なく、それが犯罪心理学という学問を一般的にイメージしづらくしている一因であるように思われます。

しかしながら、近年では科学警察研究所(警察庁)や科学捜査研究所(都道府県警)の心理研究員は、日本心理学会をはじめ、日本犯罪心理学会、日本法科学技術学会などで研究発表を精力的に行っています。それらの研究成果をまとめた書籍も多数刊行されており、一般の方でも関心さえあればそうした知見を容易に得られるようになりました。したがって「実際の犯罪心理学」と、第1回で紹介したような「犯罪心理学に対する一般的なイメージ」とのギャップは今後次第に埋まっていくものと期待しています。

<引用文献>

  • Bartol C.R. & Bartol A.M.(2005)Criminal behavior:A Psychosocial approach 7th ed., Pearson Prentice Hall(バートル, C. R. & バートル, A.M. 羽生和紀(監訳)(2006) 犯罪心理学:行動科学のアプローチ 北大路書房)
  • Davies, G. M., & Beech, A. R. (2012) Forensic psychology: Crime,justice, law, interventions. John Wiley & Sons.
  • 藤岡淳子(2007)犯罪・非行の心理学 有斐閣
  • 原田隆之(2015)入門犯罪心理学 ちくま書房
  • 大渕憲一(2006)犯罪心理学―犯罪の原因をどこに求めるのか― 培風館
  • 越智啓太(2010)犯罪捜査の心理学の現在と今後 (日本の心理学 これまでとこれから)心理学ワールド(51), 21-24.

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大上准教授が執筆に関わった書籍が出版されました。

  • 『心理学ビジュアル百科』(越智啓太編、創元社)
    目撃証言やポリグラフ検査、神経生理学的な犯罪原因論などを解説しています。
  • 『犯罪心理学事典』(日本犯罪心理学会編、丸善出版)
    「目撃証言」と「テロ犯罪」について解説しています。

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