〔研究者コラム〕ー「法律と年齢(第3回)」子どもが「有害図書」を読んではいけないのか?ー

全4回シリーズでお届けしているコラム「法律と年齢」の第2回です。コラムを担当するのは、桧垣伸次准教授(法学部)です。

2015年6月、選挙権年齢が20歳以上から18歳以上に引き上げられることが決まりました。選挙権年齢が引き下げられるのは70年ぶりということもあり、大きな話題となっています。

本コラムでは、公法学が専門の桧垣准教授が、憲法や法律の観点から「年齢」「成年・未成年」について解説していきます。

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今回は、子どもの権利が制限されている別の事例を考えてみましょう。

日本では、ほぼすべての都道府県で青少年保護育成条例を制定して、18歳以下の子どもがいわゆる「有害図書」を購入等することを禁止しています。 「有害図書」の購入等を禁止する規定は、性的描写や暴力的描写が青少年に悪影響を与えると考えられているため、制定されています。

このような禁止規定が、憲法21条が保障する表現の自由を侵害しないかが問題となります。最高裁判所は、「一般に、思慮分別の未熟な青少年の性に関 する価値観に悪い影響を及ぼし、性的な逸脱行為や残虐な行為を容認する風潮につながるものであって、青少年の健全な育成に有害であることは、すでに社会共 通の認識となっている」と述べて、このような禁止規定を合憲としました〔岐阜県青少年保護育成条例事件(最判平成元年9月19日)〕。

これに対し、アメリカでは、暴力的なビデオゲームを18歳未満の子どもが購入等することを禁止するカリフォルニア州法が問題となった事件で、連邦最 高裁は2011年に、暴力的なビデオゲームが子どもに悪影響を与えることは証明されていないなどと述べて、同州法を違憲であるとしました〔Brown v. E.M.A., 131 S.Ct. 2729 (2011)〕。

日本の最高裁は、「有害図書」が子どもに悪影響を与えることについて、科学的に証明されていないにもかかわらず、「社会共通の認識」であるとして、 簡単に規制を認めています。確かに子どもは保護が必要な存在であることは否定できません。しかし、子どもは未熟な存在だからこそ、いろいろな知識・情報に 触れて成長していくことが必要ではないでしょうか。そうであれば、公権力が子どもの自由を制限する場合、根拠を明確にする必要があるでしょう。本当に子ど もに悪影響を与えるのか、しっかりと調査する必要があります

子どもは保護が必要な存在であると同時に、個人として尊重されるべき存在です。保護を理由に、子どもの権利を不当に侵害しないようにしなければなりません。

※なお、本コラムで、「子どもの権利の制限」という場合、公権力による制限(法律や条例など)を念頭に置いています。各家庭などでの教育やルール(「○○を読んではいけない」など)は別問題です。

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