〔研究者コラム〕ー「お酒をめぐる人と自然(第4回)」ワイン:ブドウと「テロワール」ー

全5回シリーズで「お酒をめぐる人と自然」に関するコラムを紹介しています。コラムを担当するのは二宮麻里准教授(商学部)です。

二宮准教授のプロフィールや研究情報等はこちらをご覧ください。

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高品質ワインを生産するには、どんな条件が必要なのでしょうか。原料であるブドウの品質は、生産地の気候や土壌によって左右されます。生産地の気候や土壌は、人間がどうすることもできない自然条件です。しかし、選択するブドウの品種や栽培方法、醸造・熟成方法などは、人間の努力によって変えることができ、ワインの品質を向上させることができます。

「テロワール(terroir)」というワインの特徴を説明する用語があります。この用語は、「土地の風土と人間の努力によって生み出される地域固有性」を意味しています。高品質ワインとは、例えば色の濃淡といった単純な 評価軸によって決定されるものではありません。また、「この生産地で造れば、必ず高品質ワインができる」ということでもありません。「ワインとは、それぞれの地域の『テロワール』が表現された産物であり、その多様な個性は尊重されなければならない」と考え、この理念をいち早く制度化したのがフランスでした。

20世紀に入り、フランスの高品質ワインの生産地域は、ワインの呼称に産地名を使用できる地理的範囲を画定し、高品質ワインがもたらす名声を地域全体で享受するようになります。しかし、ブドウ栽培に適した地域が点在する場合、産地をどのように線引きするかが問題となりました。例えば、「シャンパーニュ」の指定から外れてしまった地域では、1911年に大規模な暴動が起こったほどでした。併せて、自己のブドウ畑にどんな品種をどのように栽培しようが、それは「個人の自由」なのではないか、という主張も当然のように沸き起こりました。

フランス政府は試行錯誤の上、1935年、原産地呼称統制(AOC)のための法律を制定しました。高品質ワインとして特別認証を受けるためには、その地域にふさわしいブドウの品種を選び、定められた方法により栽培・醸造する必要があることを、法律として明文化したのです。原産地呼称統制によって、地域の産品の名声を高めるというフランスのワイン法の理念は、現在、EUの共通政策において受け継がれ、他の産品にも適用されています。

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写真:ボルドーポイヤック地区、シャトー・ポンテ・カネ(Pontet-Canet)のワインラベル。
ポイヤック生産認証(Appellation Pauillac Controlee)と記されている

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写真:シャトー・ポンテ・カネ(Pontet-Canet)のブドウ畑(ワイラベル手前)

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写真:シャトー・ポンテ・カネ(Pontet-Canet)の「シャトー」(ワインラベル右の建物正面)

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(参考文献)

  • 蛯原健介(2008)「EUワイン改革の背景―共通市場制度に関する理事会規則の提案理由」『明治学院大学法学研究』85号
  • ドロテ・ボワイエ=パイヤール(蛯原健介翻訳)(2014)「地理的表示と商標による原産地の保護について」『明治学院大学法学研究』96号

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