〔研究者コラム〕ー「マイナンバーで何が変わるか(第3回〔下〕)」行政の効率化と行政サービスの利便性向上ー

全5回シリーズでお届けしているコラム「マイナンバーで何が変わるか」の第3回(「上・中・下」の3回に分けてお届けします)です。コラムを担当するのは、井上禎男准教授(法学部)です。

井上准教授は、法学部で行政法、情報法を担当しています。行政法の中でも、特に情報法・情報政策が専門分野です。社会的には、経済産業省(原子力関係)や 福岡市などの情報公開・情報保全に関する委員、佐賀県や福岡県内の各自治体での個人情報保護に関する委員、プライバシーマークの審査委員等を歴任していま す。また、個人情報保護に関する審議会・審査会委員の立場から、複数の自治体でマイナンバー、特定個人情報保護に関する評価やその支援業務に携わっていま す。

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  • 「私」の情報は、「私」にしか守れない。
  • 「私以外」の情報を「私以外」の誰かに渡す場合には、「本人」の同意を得ることが原則

住民票登録をしている住所に住んでいれば、私たちは少なくとも、通知カードを手にすることになります。通知カードは紙製で、氏名、住所、生年月日、性別(これらを「基本4情報」と呼びます)に加えて、個人番号(マイナンバー)が記載されています。すでに個人番号制度を語った個人情報の不正取得を試みる案件も生じているようですが、ここでは「私」の情報が、あくまで「私」自身にしか守れないことを銘じておくべきでしょう。通知カードを紛失したり、安易に他人に渡すことによって「私」の情報が流出した結果、"なりすまし"等による悪用・被害が発生する可能性もあります。

なお、民間事業者等で個人番号を取り扱う者のみならず、たとえ個人であっても、個人番号に関する法定の違反行為を行った場合には罰則が科せられます※。しかし、罰則があるからきちんと対処すればよい、というものでもないはずです。故意の場合は当然ですが、仮に不注意や軽い気持であったとしても、いったん漏えいが起こってしまえば、決して「本人」は救われません。

最近はSNS上での勝手な"タグ付け"や実名を挙げての批判・誹謗・中傷などの行為が日常化しています。もしそうした行為によって「本人」に損害が生じた場合、そうした行為を行った者は、当然に法的な責任(本人に対する民事上の責任のみならず、場合によっては名誉棄損等の刑事責任)を負います。ネットやSNSが「匿名」の世界だと勘違いしている人も多いですが、行為者を特定することは、技術的にさほど難しいことではありません。しかし、行為者(加害者)が何らかの法的な責任を負ったところで、(特定)個人情報の場合には、本人(被害者・対象者)の潜在的な被害・損害の可能性はなくならないわけです(この点は、第2回でもふれました)。

「私以外」の情報を「私以外」の誰かに渡す・知らせる、SNSやネット上に公開する場合には、「本人」の"同意"を得ることが原則です。たとえ家族の「通知カード」であったとしても、カードに記載されている情報は「私以外」の情報であって、「私」の情報ではありません。不注意や軽い気持ちで行ったことが他人、場合によっては自分の家族や友人や大切な人を傷つけ、時に取り返しのつかない被害や損害をもたらす可能性があることも、しっかりと自覚しておくべきでしょう。

※内閣官房「社会保障・税番号制度」ウエブサイト (2015年9月時点でアクセス可能)

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