低周波超音波とナノバブルを用いた中枢神経系への遺伝子の革新的な送達法の開発に成功

~新規の認知症治療への応用の可能性~
福岡大学医学部の貴田浩志准教授(解剖学講座)、立花克郎教授(同講座)、古賀隆之研究員(脳神経外科学講座)、安部洋教授(同講座)らの研究チームは、脊髄からの経路を通じて、頭部の中枢神経系組織に高い効率で遺伝子を送り届ける新たな方法を発見しました。
中枢神経系組織とは、脳、脊髄とそれらの周辺組織のことです。近年、社会の高齢化に伴い、認知症をはじめとする脳の疾患が増加しています。これらの疾患に対して、DNAやメッセンジャーRNA(mRNA)などの遺伝子治療薬の開発が進んでいます。これまで中枢神経組織、特に頭蓋骨の中の脳に遺伝子に遺伝子を送り届けることは極めて困難で、これらの遺伝子治療薬の開発の大きな障壁となっていました。
この新技術では、直径1μm未満という極めて微細な気泡であるナノバブル(別名ウルトラファインバブル)と周波数の低い超音波を用います。髪の毛の約200分の1程度の大きさしかない、この小さなナノバブルは超音波が当たると破裂して、細胞の表面に小さな孔を開け、内部に遺伝子を届けることができます。
人間を含む動物では腰部から頭部まで、くも膜下腔と呼ばれる一続きの空間があり、脳や脊髄などの中枢神経系の組織が収められています。研究チームは安全な注射部位である腰部のくも膜下腔にナノバブルと遺伝子を投与して、頭部まで到達させ、超音波を当てることで、頭部の中枢神経組織に、単純な投与の10倍以上の効率で遺伝子を届けることに成功しました。
さらに、この研究では、東京医科歯科大学 生体材料工学研究所 位髙啓史教授(生命機能医学分野)の研究チームの支援を受けて、新たな遺伝子治療薬として期待されるmRNAを神経系の細胞に送達できることも明らかにしました。これらの成果により高齢化社会における認知症や脳腫瘍などの中枢神経疾患の治療に新たな道が開かれる可能性があります。
本研究成果はスイスの学術雑誌『Nanomaterials』オンライン版に2024年1月30日(火)午後11時32分(日本時間)に公開されました。
研究内容の詳細については、別紙をご参照ください。
 
【研究成果のポイント】
●ナノバブル(直径1μm未満の気泡)と超音波を使ってマウスの頭部の中枢神経に安全に遺伝子を送り届ける方法を開発した。
●これまで謎に包まれていたナノバブルの超音波に対する物理的な性質の一部を明らかにした。
●新規の治療薬として期待されるメッセンジャーRNAを神経系細胞にナノバブルと超音波で送り届けることに成功した。
 
【論文URL等】
DOI : https://doi.org/10.3390/nano14030285
URL : https://www.mdpi.com/2079-4991/14/3/285
 
【お問い合わせ先】
福岡大学医学部 准教授 貴田 浩志
電話:092-801-1011㈹(内線:3206)
Email:kida_hiroshi★fukuoka-u.ac.jp
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