福岡大学薬学部の江川孝教授は、ウクライナから避難した人たちを支援するため、4月中旬から約1ヵ月間、隣国のモルドバ共和国で支援活動を行いました。
約1ヵ月間の活動を終えた江川教授に、現地での様子や活動内容をお話しいただきました。今回が最終回です。
モルドバ共和国でのウクライナ避難民の医療支援を振り返る
モルドバ共和国内でのウクライナ避難民に対する医療救護活動を離任し、帰国の途についています。モルドバでの4週間の活動を振り返って、薬剤師として何ができたのかを振り返りたいと思います。
いま、日本では薬剤師の業務が対物から対人へと志向する大きな転換期にきています。お薬を、患者さんに情報とともに届ける。医療従事者に、お薬を服用した患者さんの情報をフィードバックする。災害時でも、平時と同じようにモノ(医薬品)とそれに関わる情報を被災者や救護班に届けるのが薬剤師であり、そこに薬剤師が被災地にいる価値があると考えています。
モルドバ共和国内の医療支援では、救護所内の医薬品の整理、医薬品の現地調達と管理体制の構築、処方支援と治療方針の共有化、避難民への服薬指導とメンタルケアを行いました。これら活動の中で処方支援についてお話しします。
ウクライナからの避難民は、ある日突然ロシア軍の侵攻で日常が奪われ、家族を奪われ、こころに大きなストレスを抱えて避難してきている方もいます。大きなストレスを抱えた患者さんには、現地の医師に処方箋が必要なzopiclone(睡眠障害改善剤)の処方を依頼し、医療チームが薬局に処方箋を持っていき調達していました。しかし、ω1受容体に選択的に作用するzopicloneに抗不安作用は期待されません。そこで、チームの医師に、処方箋がなくても市中の薬局で調達することができる一世代の抗ヒスタミン薬の使用を助言しました。日本で一般用医薬品として販売されている第一世代の抗ヒスタミン薬は、H1受容体遮断による睡眠薬としての効果のほかに、鎮静作用も期待されます。もちろん、抗コリン作用がありますので、高齢者への処方の際は、薬剤師と協議することをチームの医師と取り決めました。
薬剤師は、薬の効能・効果の作用機序だけでなく、副作用の作用機序や薬物としての薬理作用を知っています。災害現場では限られた資源で最大限の医療を提供する必要があり、薬剤師は災害時の限られた医薬品のなかで、適切な薬物療法を提供する重要なカギになりうると信じます。
最後に今回のモルドバ派遣にあたり、研究室の学生たちが仮設診療所の医薬品集(英語版)作成とアプリ化をリモートで手伝ってくれました。また、派遣期間中、大学内外の皆様には大変ご負担をおかけしました。活動へのご理解とご協力に感謝申し上げます。
まだまだ、息の長い支援が必要です。ウクライナ避難民の方に、一日も早く平穏な日々が訪れることを切に願います。
写真は、診療を受けた避難民の子どもがお礼にと持ってきてくれた天使の蠟燭です。

EMTCCからの視察で在庫管理システムを説明
避難民の子どもからもらった天使の蠟燭
活動の様子が、ピースウィンズ・ジャパン公式ウェブサイトに掲載されています。こちらもぜひご覧ください。
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関連リンク
読売新聞オンライン:ウクライナ避難民に安心も処方、モルドバで医療支援の福岡大教授「継続が必要」
PUBLIKA TV(モルドバ共和国のテレビ局):Японские медики в Молдове оказывают бесплатную медицинскую помощь украинским беженцам(モルドバの日本人医師らがウクライナ難民に無料の医療を提供)
ピースウィンズ・ジャパン公式ウェブサイト:【ウクライナ危機】「なぜか涙が止まらないんです」避難者の苦悩に寄り添う
薬学部の江川孝教授が、ウクライナの避難民支援に隣国・モルドバへ
『福岡大学学園通信』:現場の薬剤師が見た新型コロナウイルス感染症